今日の長門有希SS

 昼休みになると、俺は例によってこっそりと弁当を抱えて教室を出る。もう恒例の事であり、誰も気にした様子がない。
 廊下を走らない程度に早足。早く行かなければ、お姫様がお腹を空かせて待ちわびているんだ。
 特に何事もなく部室に到着。ドアを開けると、そこには長門が――いなかった。
 まあ、こんな日もあるって事さ。俺は弁当を自分の前と長門の定位置に置き、スタンバイ。
 しばらくしてガチャリと音が鳴り、長門が到着。俺が先に到着している事に驚いた風もなく、スタスタと歩いていきお茶の用意を始める。
「遅かったじゃないか」
「授業が長引いたから」
 テキパキとお茶の準備を終わらせ、椅子に座る。
「いただきます」
 長門はぺこりと頭を下げ、弁当の蓋を開けた。いつもながら礼儀正しい。作った本人に見せてやりたいくらいだ。
「また今度、家に食べに来るか?」
「行く」
 即答。
「今度とはいつ?」
 箸を止め、俺の顔をじっと見てくる。
 いや、今ふと思っただけだから、具体的にいつかは決めてないんだが。
「そう」
 長門は再び箸を動かし、もぐもぐと口を動かす。
「楽しみにしてる」
 なんとなく言っただけなのだが、こうなるとさっさと日程を決めて家に招かなきゃならない。まあ、長門の事は妹を筆頭に家族が気に入ってるし、ここのところ長門を家に入れていない気がするから早めに実現させても良いだろう。妹は顔を見るたびに「今度有希ちゃんはいつ来るの?」としつこいしな。
 もぐもぐと、長門は一定のペースで箸を動かしている。のんびりとした時間だ。学校で過ごす時間の中でも、長門と二人で過ごすこの時間は格別だ。別に何か面白い話をするわけではないのだが、心が落ち着く。
 そんな風に飯を食っていると、体が揺れているような妙な感覚。なんとなく、ロッカーもガタガタと――って、地震か?
「震度三」
 長門がそう宣言した。テレビの速報などよりも早く、そして正確だろう。湯飲みなどもカタカタと音を鳴らしているが、まあ、大丈夫だよな?
 一応、心配なので立ち上がって様子を見ようとした時、視界の隅で何かが大きく動いた。チラリと見えたのは、ロッカーの上にあるダンボール箱がぐらりと傾いて、その下にいる長門に――
長門!」
 気が付くと体が動いていた。長門の背中に覆い被さるように抱きしめる。
 ぼこん。
 背中にちょっとした衝撃。
 振り返って見ると、そこには空のダンボール箱が転がっていた。拍子抜けだが、中に重い物が入っていなくて良かった。俺も長門も無事なのは何よりだ。
 しかし、この部室はちょっと散らかりすぎだな。なんでこんなもんがロッカーの上に載っかっているんだ?
 それもこれも、やはり、ハルヒが無節操に色々なところから物をかき集めてくるせいだ。やれやれ、今度、片付けるように言ってやらんとな。
「……ん?」
 何かがもぞもぞと動いた。
「……」
 下を向いて、肩をすくめてこちらを見上げている長門と目が合う。そういや、長門をかばった姿勢のままだった。
「すまん」
 ばっと体を離そうとするが腕が離れない。長門がその上から手をかぶせていたからだ。
「もう少しこのままで」
「そうか」


 それから俺達は、予鈴がなるまでずっとそうしていた。
 弁当を半分くらい残したせいで、放課後の活動時間に腹をグーグーと鳴らしていたのは、まあ、些細な事である。