今日の長門有希SS
日差しが入り込む部屋の中、俺は目を開けた。
ぼんやりとした頭で周囲を見回し、自分の部屋ではない事に気が付く。言うまでもない、長門の部屋だ。
隣に長門の姿はない。先に起き出して食事を作ってくれているのだろう。
俺はたぷたぷと揺れるウォーターベッドからゆっくりと下りる。夕べは朝倉の部屋で三人で盛り上がったせいか、なんとなく体がだるい。
首を回したり軽く伸びをしてから、俺は長門のところに向かう事にした。
台所に行くと、エプロン姿の長門が料理をしていた。フライパンからジュージューと、何かが焼ける音が聞こえてくる。
「何作ってるんだ?」
ひょいっとのぞき込むと、フライパンの中にはハムが二枚。
「ハムエッグ」
長門は手早く横に置いてあった卵を割り、ハムの上に落とす。黄身が割れる事も、殻が入る事もない。
「……」
フライパンに蓋を被せ、長門はコンロの火を弱めた。こうすると黄身が半熟で表面に白い膜が出来る。俺が教えた焼き方だ。水をちょっと入れると更に確実だが、別にそこまで表面を白くする事に執着しているわけじゃない。
しかし、出会った頃は料理をしていなかったというのに、すっかり手慣れたもんだ。
「何か手伝うか?」
「……」
長門は俺の顔をしばし見つめてから、
「ハムエッグを入れる皿をお願い」
どうやら手は足りていたらしい。
今日の朝食は、サンドイッチとハムエッグとマリネだった。
カラシバターパンに塗り、マヨネーズと混ぜた卵を挟んでオーブンの中へ。長門の方はレタスとハムを挟み、もぐもぐと口を動かしている。
マリネは早めに作って冷蔵庫で冷やしてあったらしい。具はスライスした玉ねぎと細く切ったピーマンとハム。漬け込む時間が少々短かったのか、まだ野菜が少々硬いが別にまずいわけじゃない。
しかし、なんとなく食材がかぶってるよな。
「なあ長門」
焼き上がったハムサンドを食べながら、声をかける。
「……」
しばらく考え込んでいるのか、長門は沈黙。
「……なに?」
いや、口の中に入っていたものを飲み込んで返事をした。
「ところで、なんで全部の料理にハムが含まれてるんだ?」
ハムエッグに、ハムの入ったマリネにサンドイッチ。
長門は二枚目のハムサンドを作りながら、
「記念に」
「そうか」
まあ、こんな日もあるって事か。
俺は長門と向かい合ってハムずくしの料理をもぐもぐと食べながら、もう片方のチームが優勝していたら長門はどんな料理を作るつもりだったんだろうかとちょっとだけ気になっていた。