今日の長門有希SS

 放課後の活動が終わり、解散した後で長門と合流。いつものスーパーで買い物をしてから長門の部屋に帰る。
 今日は二人で作る事にしている。荷物を置いて、ティッシュなどの生活用品を片付けてから、台所に並んで夕飯を作る。
 今日は肉を焼いたり野菜をサラダボウルに盛ったり味噌汁を作ったり、そんな感じの普通の料理。特に手をかけた料理は作らないが、まあ、いわゆる家庭料理ってやつだ。
 そろそろ料理も揃い、食器を並べようかと思っていたところで、チャイムの音が響いた。こんな時間に来客とは珍しい。
「……」
 長門がチラリとこちらを見る。自分が行くかと聞きたいのだろう。
 俺がコクリと首を振ると、長門はトコトコと出ていく。ここまでは話し声は聞こえないが、新聞の勧誘とかならあっさり断って即戻ってくるだろうから、どうもそのようなものではないらしい。
 玄関の方でしばらく話してから、足音が戻ってきた。その音が近付いてくると、俺はなんとなく来客が誰だったのか理解できた。
 なぜなら、その音は一つではなかった。こんな時間にやって来るような奴で、俺がいるのに長門があっさり中に入れるような相手の心当たりは少ない。
「お前か」
 鍋を持って台所に入ってきたのは、思った通り朝倉だ。朝倉は台所の様子を見て、少し太めの眉をひそめる。
「やっぱり、もう作っちゃってるよね」
 よく見ると、朝倉の持っている鍋はかなり大きい。
「作り過ぎちゃったから一緒に食べようかと思って持ってきたの」
 もうちょっと早く言って欲しかったな。出来れば、作り始める前に。
「だって、多いって気付いたのがちょっと前なんだもん」
 案外、朝倉にもうっかりなところがあるって事か。
「で、一緒に食べてもいいかな?」
 俺に聞く事じゃないだろ。長門が良いって言うなら俺もそれに従うが。
「わたしはかまわない」
 そう答える長門がどことなく嬉しそうに見えるのは、俺の気のせいではないはずだ。


 真っ暗な部屋、俺はぼんやりと天井を見ていた。
 明日が休日なので今日は長門の部屋に泊まりだ。朝倉を交えて三人で飯を食って、一緒に風呂に入って、今はベッドで寝転がってる。
 しかし、今日の夕飯は食い過ぎた。朝倉が持ってきたのは普通に三人でも食えそうな量だったので、元々あった俺達二人分の料理と合わせるとかなりの量になった。俺が食ったのは、普段の倍近い量だったんじゃなかろうか。
 朝倉は夕飯は控えめに食べる主義とか言っていたが、何やら食べ過ぎたのか食った後にため息をついていた。体型とか気にしているふしがあるので、一応、普段は気を付けているのかも知れない。
 それならあんなに作らなければ良いのにな。
 ともかく、食い過ぎたせいで俺は胃もたれを起こしていた。今考えると、もっとセーブして食えば良かったんだろうが、淡々と食べ続けていた長門につられてしまったのだろう。
 楽な体勢はないかと俺は寝返りを打つ。いつの事か覚えていないが、以前に食い過ぎた時に、右か左のどっちかを下にして寝転がれば良いと聞いたような気がする。実際に転がってみて、楽な方が良いんだろう。
 しばらくごろごろと体を転がしていると、
「寝付けない?」
 長門の目がパチリと開いた。
「すまん、起こしちまったか?」
「わたしもまだ熟睡していなかった」
 って事は、寝かかってはいたんだな。ほんとに申し訳ない。
「どうして?」
「ちょっと胃もたれしてな。食い過ぎたからだが、お前は大丈夫か?」
「わたしは――」
 長門は一瞬だけ間を空けて、
「少しだけもたれている」
 と言う。
 いつも多めに食っている長門だから大丈夫かと思ったが、今日は多かったという事か。珍しいな。
胃もたれで眠れないなら良い方法がある」
 なんだ? そんなのがあるなら教えてくれ。
「運動してエネルギーを使えばいい」
 と言うと、長門はもぞもぞと布団の中を動いてこちらに近付いてくる。
 運動、って……
「わたしもエネルギーを過剰に摂取している。消費する必要がある」
 まさか、そのために自分も胃もたれだとか言ったんじゃないだろうな?
 長門は俺の疑問など意に介さず、
「第五ラウンド開始」
 などと宣言。やれやれ。


 翌朝、いや、翌昼。確かに胃もたれはなかったが疲労感はすごいものだった。