今日の長門有希SS

 土曜日に不思議の見つからない不思議探しパトロールがある日は、そのまま長門の部屋に泊まる事が多いので、家を出る前に備えておかなければならない。
 しかしながら、寝坊をしてしまった場合などは急いで家を出ることになり、すっかりその事を忘れてしまう。パトロールの後に自分だけ家に戻る事も出来るが、なるべくそのような事はしたくない。
 そのようなわけで、買い物をして長門の部屋に到着してから思いだし、家に電話をして妹に頼む事もある。
「じゃあ、任せたぞ」
『うん、わかったよー』
 ここのところなぜかGコード予約が出来ないとかで、録画予約が少々めんどくさいらしいが、それでもきちんと録画しておいてくれるのが助かる。
「今日は谷口の家に泊まるって伝えておいてくれ」
『うんー』
 家を出る前から谷口家に泊まると伝えてあるが、改めて念を押しておく。
『明日は有希ちゃん遊びに来るの?』
 いくらなんでも、その話の繋がりはおかしいんじゃないのか?
「……」
 チラリと見ると、長門は買い物袋から品物を出しながら、小さく首を縦に振った。
「まあ、どこかで見かけて暇そうだったら連れて行く」
『わーい。待ってるねー』
 と言って電話を切った。確定で言っていないというのに、もう決まったかのような喜びようだ。
「楽しみにしているらしい。悪いが付き合ってやってくれ」
「いい。わたしも楽しみ」
 別に共通の話題があるとか、一緒にいると話が弾むというわけでないのだが、長門と妹は仲が良い。二人はたまに姉妹のようにしている事があり、そんな時に俺は蚊帳の外に追いやられる。
「今日は何を食べる?」
「そうだな……」
 大まかには決めているが、安い食材を適当に買ったから具体的なメニューはまだ決まっていない。
「何か食べたいものはあるか?」
「あなたが作ってくれるものなら何でもいい」
 うれしいこと言ってくれるじゃないの。
 それじゃあ、とことん食わせてせてやるからな。
 夕食に元気の出る料理を作り、けっこう頑張った。


 翌朝――いや、昼頃に起床。目が覚めてからもしばらくぼーっとしていたが、隣に長門がいない事に気付き、疲れの残る体を引きずって起きあがる。
「おはよう」
 キッチンに行くと、エプロンを付けた長門がゆで卵を剥いていた。ボウルにレタスやスライスされたキュウリなどが敷かれているので、どうやらサラダを作っているらしい。
「何か手伝うか?」
「もう終わる」
 剥いたゆで卵をナイフでカットしてボウルに置き、それでサラダは完成。
 俺はその横で、袋から取り出した食パンをオーブンに二枚並べてタイマーを捻る。
 肩越しにチラリと長門を見――
「服を着てくれ」
 エプロンだけというのはなんて破壊力があるのだろう。いや、いつもならそのまま流されても問題はないのだが、今日は家に来る約束があるじゃないか。その、なんだ、早く服を着てくれないと帰れなくなるぞ。


 サラダとトーストの朝昼兼用の食事を終えてから自転車に乗って俺の家に向かう。相変わらず長門は重みを感じさせないので、スイスイ自転車を走らせる事が出来る。
 家に到着。
「有希ちゃーん」
 ドアを開けるや否や、恒例のように長門の名を叫んで飛び込んできた妹を長門が受け止め、その長門の背中を俺がさらに受け止める。
「トランプー」
 主語も何もなく名詞だけを叫びながら、長門の手を引いてリビングに連れて行ってしまう。やれやれとため息をつきながらその後に続いてリビングに向かい、ソファに腰掛ける。
 とりあえずテレビの電源でも入れようかとリモコンで電源を入れると、ビデオデッキの電源が入る。別に心霊現象とかそういうものではなく、間違ってビデオのリモコンを取っていただけの事だ。
 疑っているわけではないが、念のため確認。うん、問題なく録画できている。
「今見るの?」
 妹が首を傾けて俺を見ていた。
 その仕草……真似をしているのかナチュラルにやっているのかわからないが、なんというか、その、似てるよな。
「いや、そういうわけじゃないんだが」
「わたしはかまわない」
 長門はちょこんと俺の横に座り、膝に手を置いている。
 この三人でいる時、長門の言葉というのはいわゆる鶴の一声である。そんなわけで、俺達は並んで腰掛けて特撮番組を見る事にする。


「ライダージャンプ……」
『RIDER JUMP!』


 何だかすごい展開だった。