今日の長門有希SS

 天気の良い休日。ベンチに座り、二人でぼーっとする。
 ここは、長門のマンションからそれほど離れていない場所にある大きめの公園。なんとなく歩いて来た俺達は、なんとなくベンチで休憩していた。
 別に目的があるわけじゃない。出る前に朝昼兼用の食事を摂ってから来たから、買い物をするにしても夕方まではのんびりできる。
 たまにはこんな日もいいもんだ。
 ぽかぽかとした陽気が気持ち良く、ついウトウトしてしまう。
「……」
 指がきゅっと握られる。長門が少しだけ、不満そうに俺を見ていた。
 大丈夫だ、お前をほっといて眠りはしないさ。
 反対側の手で脇腹をくすぐってやると、長門は少しだけ体をよじらせてから、安心したように頭をもたれかけてきた。
 ああ、こうしていると、なんだか――痛っ。
「だめ」
 すぐそばに不満そうな顔。またウトウトしてしまったようだ。
 さて、このままじゃ眠ってしまうのは時間の問題だ。
「ちょっと歩くか」
 尻がベンチに根を張ってしまう前に、俺は立ち上がって長門の手を引く。引かれるままに長門は立ち上がり、俺の後ろをトコトコと着いてくる。
 ブラブラと公園を歩く。別にこれと言って何かがある公園ってわけでもない。だが、それなりに広い公園で、ささやかだが小さな噴水もある。
 ここにいるのは家族連ればかりで、自分達と同じくらいの年代の人はなかなかいない。まあ、一般的なカップルなら街でもぶらついているのかも知れないし、俺達だってそんな風に過ごす事だってある。
 だが、こんな風にのんびりと過ごしたい日だってあるのだ。
 ぐるりと公園を回って、結局またベンチに戻ってきた。そこに座ってぼーっとする。
 ああ、平和だ。ここのところ平穏な日常が続いているが、今日は特にそんな気がする。
 ぼんやりとしていると、またウトウトと眠くなってきた。しかし、長門を放置して眠るわけにも――
 コツンと胸のあたりに衝撃。眠らないように叩かれたのかと思ったが、どうもそうではない。
 俺の胸に、長門の頭がもたれかかってきていた。ここからでは長門の顔をうかがうことが出来ないが、スースーと寝息が聞こえる。
 この陽気で長門も眠ってしまったらしい。長門の体がベンチからずり落ちたりしないよう、肩に手を回して体を固定すると、俺も目を閉じる。
 温かい日差しを浴びながら、意識がすーっと暗転していく。何だか妙に心地がよく、俺はそれに身を任せ、眠りに就いた。


 どれくらい意識がなかったのかわからないが、気が付くと少し離れた場所から「カップルだカップルだ」と連呼している声が聞こえた。うっすらと目を開けると、小学生くらいの子供達がこちらを指さしている。
 ああ、悪いか。カップルだよ。
 更に強く体を引き寄せると、長門は口から「ん」と声を漏らし、身をよじらせた。
「……」
 ゆっくりと体を離し、キョロキョロと周囲を見回す。
「寝てない」
 そんなバレバレな嘘はいい。
 チラリと携帯のディスプレイを見ると、長門のマンションを出て一時間ほどが経過している事に気が付いた。となると、うたた寝していたのはせいぜい三十分と言ったところだろうか。
「わたしは寝てない」
 いや、それはもういいぞ。
「ちょっと早いが、買い物でも行くか」
「……」
 長門は無言で僅かにアゴを引く。
 今日は時間に余裕がある。ちょっと離れた店まで行って、食事以外にも色々見て回ろう。


 ちなみにその日の買い物の間、長門は、
「わたしはずっと起きていた」
 と言ってきかなかった。