この物語はむらびととじぬしさんの続編その4です。
・その1
・その2
・その3
・その4
・その5
「やっぱりあの
生首は
悪魔の
生首です」
「えぇー」
「やっぱりー」
「このままだと、
村は
祟りで
滅びるでしょう」
「えぇー」
僧侶の
言葉に、
村人たちはどよめきます
「どうすれば
良いんですかー」
「
助けてー」
「
怖いよー」
村人たちは
半狂乱になりますが、
僧侶は
落ち
着いています
「
大丈夫ですから、
安心してください」
村人たちは
一斉に
僧侶を
見ます
「
私が
今晩、
悪魔をやっつけます」
「それで、
我々はどうすれば
良いんですか」
神主さんが
訊ねると、
僧侶は
少し
考えました
「
危険なので
皆さんは
家の
中でじっとしていて
下さい」
「わかりましたー」
こうして、
僧侶は
悪魔を
退治する
事になりました
その日の深夜、僧侶は境内に来ていました
境内はひっそりと静まり返っており、人の気配が全く感じられません
「…………」
無言のまま、僧侶は遠くにある生首を見つめています
「…………」
生首も無言のまま僧侶を見つめています
「はっ」
息を吐き、僧侶は生首に向かって走り出します
そして、僧侶は持っていた木刀を振りかぶり、生首に向かって跳躍しました
「とりゃあぁぁ」
僧侶は生首に木刀を振り下ろしました
「ふっ」
しかし、僧侶はそのまま着地すると、左手を放して振り向きざまに木刀を後ろに振りました
がきぃぃん!
境内に堅い物がぶつかり合う音が響きます
そこにいたのは黒い装束をきて、覆面をした人物でした
僧侶が自分の攻撃を防いだ事を驚いているのか、そのまま動きません
「あなたが祟りの正体ですね」
僧侶が言うと、覆面の人物は後ろに飛び退きました
間合いを取り、覆面の人物は棒を構えます
「事情はわかりませんが……」
僧侶は静かに木刀を上段に構えます
「覚悟して下さい」
僧侶が振り下ろした木刀を辛うじてかわし、覆面の人物は反撃を仕掛けます
棒が僧侶の側面に襲いかかります
がつっ!
しかし、軌道を変えた木刀がその攻撃を阻みました
「はっ」
僧侶が木刀を振り抜くと、覆面の人物はバランスを崩して前に倒れそうになります
「覚悟!」
僧侶の木刀が覆面の人物の背中に襲いかかりました
木刀が背中に接触する瞬間――
「はっ!」
覆面の人物は息を吐いて大きく前方に飛びました
がっ!
空を切り、木刀は境内の石畳を強く打ちました
手に軽い痺れが走りますが、僧侶は気にせず木刀を構え直しました
「やりますね」
二人は向き合ったまま動けないでいます
二人の力が拮抗しているので、下手に動く事は死を意味するのです
「たっ!」
僧侶が木刀を片手に持って跳躍します
ぶん!
横に薙いだ木刀を、覆面の人物は地面に倒れ込んでかわします
「はっ!」
空振りの後に生じた隙を突き、覆面の人物が棒で攻撃を仕掛けます
どっ!
しかし、吹き飛んだのは覆面の人物でした
一瞬、覆面の人物は自分がどうしてやられたのか理解できませんでしたが、僧侶の構えを見てカウンターを食らったのだと知りました
僧侶は木刀を手放し、掌底を放っていたのです
それが鳩尾に命中し、覆面の人物は吹き飛ばされました
「私は本来、体術の方が得意なのですよ」
僧侶はゆったりと両手を構えたまま、覆面の人物と静かに間合いを詰めます
「っ!」
覆面の人物が突然弾かれたように跳躍し、僧侶に足払いを仕掛けます
しかし、僧侶は軽く飛んでその攻撃を避けました
次の瞬間、僧侶の目の前で何かが弾けました
それは砂の塊で、砕けた粒が目に入って僧侶の視力を奪います
「くっ……」
苦し紛れに僧侶が相手のいそうな方向に掌底を放ちますが、その攻撃は相手を捉える事は出来ませんでした
反撃に備えて僧侶が防御の姿勢を取りますが、いつまで経っても攻撃が来ませんでした
その時、僧侶の耳に微かな足音が聞こえました
「は!」
痛む目で無理に周囲を見回すと、神社から遠ざかって行く覆面の人物の背中が見えました
覆面の
人物が
鳥居の
所に
差し
掛かったその
時――
「
今です!」
僧侶が
叫びました
「あっ」
覆面の
人物が
小さく
叫んで
宙を
舞いました
鳥居の
所に
張られた
縄に
足を
取られ、
倒れてしまったのです
「やったぜー」
「いえーい」
茂みの
陰から
自警団たちが
現れました
実は
僧侶に
要請され、ずっと
待機していたのです
自警団たちは
覆面の
人物の
周囲を
囲んで
小躍りしています
「
油断してはいけません!」
僧侶が
叫びますが、
自警団はへらへらとしているだけです
その
瞬間――
「ぐぇぇっ!」
自警団の
一人が
奇妙な
声を
発して
倒れ
込みます
「どうし――ぐえぇ」
「ぐえぇ」
自警団たちは
次々と
声を
上げて
倒れて
行きます
覆面の
人物が
投げつけた
石が、
油断していた
自警団の
喉笛に
見事に
命中したのです
「はっ」
覆面の
人物が
跳ね
起き、
自警団の
包囲を
破って
走り
出します
がっ!
しかし、
覆面の
人物は
足に
衝撃を
受けて
倒れ
込みます
なんとか
追い
付いた
僧侶が
木刀で
足を
払ったのです
膝を
強く
打ったので、
覆面の
人物はもう
走って
逃げる
事はできないでしょう
「くそぉくそぉ」
自警団の
一人が
毒づきながら
近寄ります
「この
野郎」
自警団が
覆面の
人物を
蹴飛ばそうとしますが、
僧侶がそれを
木刀で
防ぎました
「
暴力はいけません」
そう
言われると、
自警団は
不機嫌そうに
覆面の
人物を
睨みつけていました
自警団は
強い
者に
弱くて、
弱い
者には
強いのです
「それより、
抵抗されると
困るので、
両手を
縛って
下さい」
僧侶の
指示により、
自警団たちは
覆面の
人物を
縛り
上げていきます
覆面の
人物は
抵抗する
様子も
無く、
観念しているようでした
「さて、では
正体を
見せてもらいましょう」
僧侶が
覆面に
手をかけます
「お、お
前は!」
覆面の
下の
顔を
見て、
自警団の
間に
衝撃が
走ります
「…………」
その
人物は
無言でそっぽを
向いています
「どうして……」
自警団の
一人が
絞り
出すように
呟きました
「お
朱鷺……」
そうです、その
人物は
村の
男たちの
憧れているお
朱鷺だったのです
お
朱鷺は
美しく
静かな
少女で、こんな
事をするとはとても
思えません
現に、
自警団の
中には
姿を
見てさえ
信じられない
者もいます
「まあまあ、
理由は
明日にでも
聞くとしましょう」
僧侶が
静かに
言います
「
今日はどこか、
閉じ
込めておける
場所はありませんか」
僧侶の
言葉に、
自警団が
考えを
巡らせます
「あ、あそこだ!」
自警団の
一人が
叫びました
そして、
彼に
着いてみんなで
歩き
始めました
「ここです」
それは小さな洞穴でした
「実は、ここは僕の秘密の場所なんですよ」
みんなを連れて来た人が自警団のみんなに言います
彼は子供の頃から好奇心旺盛で村の隅々を歩き回っているので、村の事に関してかなり詳しいのです
「ふむふむ」
僧侶が洞穴の中を見回しています
この洞穴は岩山の側面がへこんだ様な構造になっています
「入口が一つですし、ここなら問題ないですね」
僧侶が入口の所に立ちます
「手足を縛った状態にして、ここに二人ほど見張りをたてていれば大丈夫でしょう」
「俺がやりますー」
自警団の一人が手を上げました
「では、あなたともう一人で明日の昼頃まで見張っていて下さい」
「じゃあ、俺も見張るー」
「それでは、明日の昼に公正に審議しますので、それまでお願いしますね」
「わかりましたー」
こうして、二人を残して他の人々は解散しました