むらびととじぬしさん


 昔々むかしむかしのおはなしです
 ここは、オセアニアおせあにあ大陸たいりくにあるちいさな農村のうそんです
 おこめ生産せいさんして、ほか地方ちほうって利益りえきています
 うみめんしていているのでさかなれるし、野菜やさい自分達じぶんたちぶんくらいは自給じきゅうできています
 それほど裕福ゆうふくむらではありませんが、むらびとたちはみんなで仲良なかよらしていました



 あるとしむら重大じゅうだい事件じけんきました
 むら土地とち所有しょゆうしていた地主じぬしさんが蜘蛛膜下出血くもまくかしゅっけつんでしまったのです
「どうしよー」
「どうしよー」
 村人達むらびとたちこまてました
 小作人こさくにんである村人むらびとにとって、地主じぬしさんがいないと農業のうぎょうができないのです
 それに、このままでは田圃たんぼ政府せいふ没収ぼっしゅうされてしまいます
「どうしよー」
「どうしよー」



「そうだ」
 村人むらびと一人ひとりひらめきました
あたしい地主じぬしさんをぼう」
 村人むらびとたちは地主じぬしさんの持物もちものから親戚しんせき連絡先れんらくさき見付みつけて、あたらしく地主じぬしさんになってくれるように手紙てがみきました
 それからすこしして、むらあたらしい地主じぬしさんがやってました
 かれ元々もともとほかむら地主じぬしさんだったのですが、このむらこまっているのをかねてたすけにてくれたのです
 あたらしい地主じぬしさんは小作料こさくりょうまえ地主じぬしさんよりちょっとすくなかったので、村人むらびとたちはさら大喜おおよろこびです
「ばんざい」
「ばんざい」
 村人むらびとよろこんでくれて、地主じぬしさんはこのむらてよかったとおもいました



 それから、村人むらびとたちは地主じぬしさんをとても尊敬そんけいしました
地主じぬしさん、ははー」
 村人むらびとたちはみち地主じぬしさんに出会であうと、みずか平伏ひれふして地主じぬしさんをたたえます
 尊敬そんけいうより、それは崇拝すうはいでした
「そんなことをされるとこまりますよ」
 そのたび地主じぬしさんは村人むらびとがらせます
地主じぬしより、あなたたちのほうえらいんですから」
 こんな人格者じんかくしゃ地主じぬしさんを、村人むらびとはますます大好だいすきになりました



 でもそのとしなつ台風たいふうむらおそいました
「うわーうわー」
「うわーうわー」
 村人むらびとたちはこまててなにもできません
水路すいろじて、田圃たんぼみずはいらないようにしましょう」
 地主じぬしさんが的確てきかく指示しじしますが、村人むらびとはうまく行動こうどうできません
いねがーいねがー」
 間違まちがって水路すいろ全開ぜんかいにしてしまい、いね全部ぜんぶながされてしまう村人むらびともいます
おぼれるーおぼれるー」
 錯乱さくらんして田圃たんぼなかころんでしまい、溺死できし寸前すんぜんになる村人むらびともいます
 地主じぬしさんを中心ちゅうしん奮闘ふんとうし、台風たいふうとおぎました



 結局けっきょく、あの台風たいふう爪痕つめあとひどいものでした
「これしか収穫しゅうかくできなかったですー」
「これしか収穫しゅうかくできなかったですー」
 そのあき村人むらびとたちが小作料こさくりょうしましたが、そのりょう微々びびたるものでした
「まあまあ、今年ことし仕方しかたないですよ」
 それでも、地主じぬしさんはにしていない様子ようすです
すべて、台風たいふう原因げんいんですから、みなさんはなにわるくないですよ」
 地主じぬしさんの言葉ことばに、村人むらびとたちは一層いっそう尊敬そんけいしました



空腹くうふくだー」
空腹くうふくだー」
 ふゆになり、村人むらびとたちの備蓄びちくしたこめそこはじめていました
 すこしずつべてはいますが、これではふゆせそうにありません
 げんに、栄養失調えいようしっちょうたおれてしまったひともいます
空腹くうふくだー空腹くうふくだー」
空腹くうふくだー空腹くうふくだー」
 村人むらびとたちは集会場しゅうかいじょうあつまり、対策たいさくっていました
「どうしよー」
「どうしよー」
 しかし、いくら相談そうだんしても食料しょうくりょうえるわけでもありません
台風たいふうさえなければかったのにー」
 一人ひとりつぶやくと、みんな溜息ためいきをつきました
「あの台風たいふうさえなければおなかいっぱいなのに」
いままで、あんな台風たいふうことなんてかった」
 そのときだれかがつぶやきました
てよ、まえ地主じぬしときは、台風たいふうなんてなかったぞ」



「きっと、あのあたらしい地主じぬし元凶げんきょうだ」
「そうそう、悪魔あくま手先てさきちがいない」
 村人むらびとたちは、ひらかえしたように地主じぬしさんの非難ひなんはじめました
「あいつが台風たいふう儀式ぎしきをしているのをたぞ」
 村人むらびと一人ひとりが、おもわずうそをつきました
 おんあだかえすとは、まさにこのことです
おれたぞ、神社じんじゃでやっていた」
子供こども生贄いけにえにしていたぞ」
まえ地主じぬしさんがんだのは、あいつがのろいをかけたからだ」
すくない小作料こさくりょうでもおこらないのは、我々われわれ油断ゆだんさせる魂胆こんたんだったんだ」
 村人むらびとたちの会話かいわはどんどんエスカレートえすかれーとしていきます
「なんなら、あいつをっちまえ」
 空腹くうふく狂気きょうきじり、とうとう一人ひとりがそんなこと口走くちばしりました
 カニバリズムかにばりずむです
「そうだそうだ、悪魔あくま手先てさききにしよう」
悪魔あくま手先てさきは、きっと美味うまいにちがいない」
一人ひとりだけ、食物たべもの独占どくせんする悪魔あくま正義せいぎ鉄槌てっついらわせよう」
 そして、村人むらびとたちはおもおもいの武器ぶきって地主じぬしさんのいえことになりました



 不作ふさくあたまなやませていた地主じぬしさんは、ストレスすとれす空腹くうふく寝付ねつけずにいました
 あとこまった村人むらびとにおこめあたえることができるように、おこめほとんけていないのです
 すると、そとからなに物音ものおとこえてます
なんだろう」
 地主じぬしさんが雨戸あまどけると、しんじられない光景こうけい展開てんかいされていました

「じーぬしーをこーろせー」
「じーぬしーをこーろせー」
「あーくまーをこーろせー」
「あーくまーをこーろせー」

 なんと、村人むらびとたちがくわかまってせてていたのです



はなてー」
「おおー」
「おおー」
 村人むらびとたちがっていた松明たいまつ一斉いっせいけます
 大半たいはんゆきうえちてえてしまいますが、いくつかは雨戸あまどから部屋へやなかはいってしまいます
「わあ」
 松明たいまつたたみ引火いんかし、部屋へや一瞬いっしゅんにしてほのおつつまれてしまいました
あつあつい」
 地主じぬしさんはもとめて部屋へや見回みまわしますが、とびらにはすでびていて、出口でぐち雨戸あまどしかありません
「うわぁ」
 おもわず、地主じぬしさんは雨戸あまどからそとしました



ねー」
 村人むらびとかま地主じぬしさんの喉笛のどぶえさりました
「ぐげふぅ」
 こえうより、それはおとでした
「やっちまえー」
いきめるんだー」
 次々つぎつぎと、村人むらびとたちは農具のうぐけます
けー」
けー」
 村人むらびとたちは、地主じぬしさんをばらばらにいてしまいます
「…………」
 地主じぬしさんはすできていないようです
 ひとというより、それはものでした



 そして、村人むらびとたちは地主じぬしさんをななつにいてしまいました
 生首なまくび神社じんじゃいてさらものです
 内臓ないぞうはたけめて肥料ひりょうです
 にくいてみんなでべました
 ほねくだいてはたけ酸性土さんせいど中和ちゅうわするのに石灰せっかいわりに使つかいました
 むらから悪魔あくま手先てさきである地主じぬしさんがえて、平和へいわもどったかにえました
 でも、食料しょくりょう不足ぶそく一向いっこう改善かいぜんされなかったので、にくあじおぼえた村人むらびとたちは共食ともぐいをはじめました
 こうして、狂気きょうきつつまれた一冬ひとふゆむらほろびてしまいました



おしまい