ゲームをやらなかった人のモバマスキャラクター知名度(アニメ前)

 アイドルマスターシンデレラガールズのアニメにとてもハマっている自分ですが、ふと「ゲームをプレイしていない人はどれくらいのキャラを知っているのだろう?」と気になったので、実際にプレイしていなかった自分が、積極的に情報を拾わなくても具体的にどれくらいのキャラを知っていたかリストアップしていくことにしました。
 ただし自分はアイドルマスターのゲーム版(初代360版)をプレイしたことがあり、アニメもテレビシリーズの半分くらいと映画を視聴していて、全くアイドルマスターシリーズに触れていない人間よりは知っていると思われます。
 あと、ネットSSとか同人誌も気が向いたら読んでいます。


 と、前置きはそんな感じとして、具体的に書いていきます。
 上記の通り765プロのキャラは最初から知っているので省きます。
 ちなみにキャラクター一覧は以下のサイトのリストを参考にしました。
ニコ典 − アイドルマスターシンデレラガールズ(モバマス/モゲマス)のまとめと研究

ひなた「あおいのことが好きかもしんない」

「いつかふたりで来ようね」
 それは、子供の頃にした他愛のない約束だった。きっとその時には特別な意味なんてなくて「また一緒に登山をしよう」くらいの軽い気持ちだったのだろう。
 でも、今は違った。
 小学生時代に怪我をしたのが原因で内向的になったあおいとは、なんとなく疎遠になって、別の学校になった中学時代はほとんど会うこともなかった。
 高校生になって、同じ学校の同じクラスになって、私はあおいに話しかけようとしたものの、久しぶりで何を話していいかわからなかった。
 そこでふと、あの約束のことを思い出す。
 そう、私たちには、一緒に山を登ろうという約束がある。
 だから私は、仲がよかったころの共通の話題、登山のことを切り出した。
 あおいは面倒そうに、というか私のことをあまり覚えていないようだったものの、渋々と話に付き合ってくれた。それから徐々に打ち解けて、一緒に遊ぶようになって、今では親友と言ってもいい関係だと思う。
 昔のように、いや、それ以上に仲良くなれたのは、約束があったおかげだ。私たちの関係を繋いでくれたあの約束は、私にとってはかけがえのないものだ。
 だからこそ、考えてしまう。
 約束を果たしてしまったら、どうなるのか、と。
 もともとあおいは、登山に乗り気ではなかったのだ。高いところが苦手で渋るあおいを、あの約束を盾に私が無理矢理に引っ張っていったようなものだ。
 今でもたまに、あおいは本当に登山が好きなのか、と不安を持ってしまう。
 登山を通じて、あおいや私には友達ができた。登山経験の豊富な楓さんに、ここなちゃん。他にも登山を通じて色々な人たちとの出会いがあった。だから登山をすることは、あおいにとっても、プラスになっているはずだ。
 でも、そう思っているのは私だけではないか、とも考えてしまう。もし高校で私と会わなければ、あおいはどんな風になっていたのだろう。どこか文化系の部活に入って、それなりに友達もできて、充実した高校生活を送っていたかも知れない。
 しかし、きっと、そこには私の姿がない。
 そう考えると、あおいには悪いけど、あの時話しかけてよかった、と思ってしまう。


「急にどうしたのさ。なんか話でもあるの?」
 家にやってきたあおいは、ふてくされたような顔を浮かべている。
「いやあ、別に話ってほどじゃないんだけど」
「ふーん」
 部屋に上がり込み、あおいは床に座って置いてあったファッション誌をぱらぱらとめくり始める。
 自分の部屋のようにくつろぐあおいに、少しばかり呆れる気持ちと、心を許してくれているという嬉しさが入り交じった感情を抱く。
「もしかして、怒ってる?」
「別に。ひなたが人の都合なんて考えてないの、いつもの事だし」
 どこか嫌みっぽく言うあおい。
「いいじゃん。夏休みだし、どうせ用事なかったんでしょ?」
「ひなたと違って、私はそんなに暇じゃないんだから。バイトだってあるし」
「あおいの用事なんてそれくらいじゃない」
「バイトの他にも用事くらいあるよ」
 あおいはハムスターのように頬をふくらませる。小動物のようで、何となくおかしい。
「見栄張っちゃって。どうせ家で小物でも作ってたんでしょ」
「見栄じゃないし。最近、毎日友達と出かけてたもん」
「え、嘘でしょ?」
「ホント」
 ひなたには言ってなかったけ、と、あおいはにやりとする。
 あおいは負けず嫌いだけど、本当のことを言ってるのは、顔を見てなんとなくわかった。
「誰?」
「ふふーん、内緒」
 にやにやと笑うあおいに、胸がモヤモヤとする。
 あおいの交友関係はだいたいわかっている。というより、そもそもあおいには学校でも友達が少なくて、趣味もインドアで、知らない人と出会うきっかけなんて少ない。
 あおいの一番の友達は自分だ。
 そして、一緒に登山をする楓さんやここなちゃん。他には一緒にバイトをしている大学生のお姉さん。あおいと仲がいい同年代の人は、せいぜいこれくらいのはずだ。
「どうせ楓さんかここなちゃんでしょ?」
「違うんだなあ、これが」
 どきりとする。
 そういえば、と思い出す。楓さんと出会ったのは、あおいが先だった。あおいと二人で行った登山用品店で、別行動をしていた時に知り合って、そこで連絡先を交換して今に至る。ここなちゃんと出会った時は二人で一緒だったけど、今思うと、あおいのほうが先に打ち解けていたようにも思える。
 今となってはすっかりそんな出会い方だったのを忘れていたけど、あおいが私の思っているよりも社交的だったということを示している。
 あおいに私の知らない友達がいる? いや、それは本当にただの友達だろうか?
 例えば私の知らないところで男の人と知り合って、デートをしていたなんて可能性が、絶対にないと言い切れるのか。
「誰なの? 男? 女?」
「だから、内緒だってば。しつこいなー」
 へらへらと笑うあおいに、段々と腹が立ってくる。
「教えなさいよ」
「ちょっとひなた、痛いって」
 無意識に握っていた腕を慌てて離す。
「ごめん」
「もー、何ムキになってんの」
 やれやれ、とあおいは私が掴んでいた部分を揉みながら、ため息をついた。
「楓さんの友達のゆうかさんって人。勉強を教えてもらってたの、宿題残ってたし。楓さんもだけど」
「そうなんだ……」
 ほっと胸をなで下ろす。
「なんでそんなに気にすんのさ。お母さんか」
「なんで、って」
 ……どうしてだろう?
 あおいが知らない人と毎日出歩いていたと聞いて、どうして私はこんなに焦ったのか。
 知らない人といるあおいが想像できなかったから?
 いや、違う。私はそれを想像したくなかったんだ。
 男の人かも知れないって思ったら腹が立って、なかなか白状しないあおいが許せなくて、無意識に腕を掴んでいた。
「わかんない」
「何それ」
「しょうがないでしょ。自分でもわかんないんだから」
「わかんないですませないでよね。痛かったし、なんか怖かったんだから。束縛の激しい彼氏かっての」
 彼氏という言葉に心臓が跳ねる。
 私たちは高校生で、恋人がいてもおかしくない年齢だ。あおいが男の人と付き合っている姿を想像して、頭を振る。
「いないよね?」
「なにが?」
「彼氏とか、いないよね?」
「え、ちょっと、今日どうしたのさ」
「いいから教えて。あおい、彼氏とかいないよね?」
「いないってば。こんだけ一緒にいるのに、わざわざ聞かなくてもわかるでしょ。だいたい、男の人との出会いなんて……って、何言わせんの!」
「うん……そうだよね」
「ひなた、さっきからどうしたの? なんか変だよ? 風邪ひいた?」
 おでこに手を当てられ、どきりとする。
「あー、触ってもよくわかんないか」
 あおいは私から手を離して、自分のおでこに手を当てて、苦笑している。
 私はどうして、こんな気持ちになっているのだろう。
 あおいが知らない人と一緒にいたと聞いてイラついて、彼氏がいないと聞いてほっとして、触れられるだけでこんなにも心臓が痛くなって。
 これではまるで。
「あおいが」
「ん?」
「あおいのことが好きかもしんない」
 無意識に口にした瞬間、しまったと後悔した。あおいはキョトンとしていたが、すぐに意味を理解してひきつったような顔になった。
 冗談。いつもの悪ふざけだ。
 そう言いたいのに、舌が口の中で張り付いたように、声がでない。
「どういう意味?」
「ちが、違くて」
「好きって言ったよね。どういう意味で?」
 じっと、真顔でのぞき込んでくる。
「どうでもいい相手なら、聞こえなかったことにしてるかも知れない。でも、ひなたは、違う。そうじゃないから」
 淡々と、あおいは続ける。
「親友だと思ってるから有耶無耶には出来ない。ちゃんと説明してくれないと困るよ」
 親友という言葉に胸がずきりと痛む。
「ごめん。言ってくれないなら、もう、ひなたには会えない」
 そう言ってあおいは、立ち上がる。
「あ……」
「ね、ひなた」
 立ち上がったまま、あおいは私をじっと見ている。
 無表情に見つめてくる顔が、怖い。
 自分の気持ちを打ち明けたら、あおいに気持ち悪いと思われるかも知れない。軽蔑されて、嫌われるかも知れない。
 でも、このまま会えなくなってしまうのは、もっと嫌だった。
「私も、よくわかんなくて、上手く言えないと思うけど」
「いいよ。聞くから」
 そう言うと、あおいは私の前に腰を下ろす。
「あおいが、他の人と一緒にいたって思ったら、変な気持ちになって、彼氏がいるかもとか、そういうの考えて、なんかすごいムカついて」
「うん」
「だから、ヤキモチ焼いてて、あおいが好きなのかもって、思った」
「そっか」
 あおいはすっと、立ち上がる。
「ごめんひなた、今日は帰るね」
「そんな!」
「あー、違う違う。あんなこと言われて、私も混乱してるの。ひなたも私も、ちょっと冷静に考える時間があった方がいいかな、ってね。さっきも言ったけど、ひなたは大事だから、適当には応えられない。ひなただって、何か勘違いしているかも知れないでしょ?」
 諭すように、あおいは微笑む。
「じゃあ、まだ」
「うん。明日、また来る」
 そう言って、あおいは部屋を出て行った。
 普段は、喧嘩していても玄関の外まで見送るのに、私は動けなかった。
「明日、か」
 とりあえず、今の私はほっとしていた。あのまま二度と会えなくなるよりはよかった。
 こう考える時点で、もう、頭を冷やして考える必要なんてない。あおいに対する気持ちは、もう自覚している。
 好きかも知れない、なんて、そんなあやふやな気持ちではない。
 私はあおいに、恋をしている。


 翌日、あおいは約束した通り、家に来た。
「入るよ」
「うん」
 最低限の言葉を交わして、私の部屋に移動する。
「昨日、ひなたが言った好きって、恋愛の好きなの?」
「そう」
 部屋に入ってすぐの問いかけに、私は断言していた。
「私はあおいが好き。友達としてだけじゃなくて、恋愛感情で。ただの友達じゃ、あんな気持ちにはならないと思う」
「そっか」
 あおいは、小さく息を吐く。
「確認していい?」
「何……?」
「ひなたは、レズなの?」
 レズ。
 その言葉で心臓が締め付けられるような気持ちになる。
 あおいはあくまで淡々と口にしたけど、どことなく嫌悪感のようなものが感じられた。
 自分が同性愛者かどうかなんて、今まで考えたことはなかった。でも、女同士で好きだなんて口にしたら、そう思われても当然だ。
「自分でも、よくわかんない」
 少なくても今まで、同性を恋愛対象としてみるなんて、考えたこともなかった。あおいを好きかも知れないなんて思ったのも、まさに昨日が初めてだ。
「じゃあ……例えば、楓さんやここなちゃんと、キスできる?」
 想像して、ぞっとした。
「無理だと思う。二人にはすごい失礼なんだけど……正直、気持ち悪い」
「じゃあ私とは?」
 あおいがすぐそばに顔を近づけてくる。
 人の事は言えないけど、子供っぽい顔だ。不細工ではないけど、特に美人だとか可愛いってほどでもなくて、地味と言ってもいい。
 でも、私は、その顔から目が離せなかった。
 案外、まつげが長いとか、全体のバランスはいいとか、唇が柔らかそうだとか。
「どう?」
「ドキドキ、する」
「キスしたいの?」
「たぶん……」
「女同士だよ? 気持ち悪くないの?」
「あおいだから、だと思う。他の人にはこんな気持ちにならない」
「そう、なんだね」
 あおいは顔を離し、真面目な顔をする。
「私はノーマルだよ」
 お前は異常なんだ、と糾弾されているような気分になる。
「ひなたとキスするって考えたら、抵抗ある」
「うん……」
 昨日の反応で、だいたいわかっていた。
 小学校の頃、あおいには好きな男の子がいたし、今まで誰とも付き合っていなかったけど、あおいが異性を恋愛対象にしているなんて、ずっと知っていた。
 自分の思いが叶わないなんて、もう、言われなくてもわかっていたことだ。
「ごめん……あおいに、嫌な思いさせたよね」
「ひなた」
「でもさ、約束の、谷川岳は一緒に登ってくれる? 私たちだけならいいんだけど、楓さんやここなちゃんとの約束にもなってるし、今から止めるのは、嫌なんだ」
「ひなた、ちょっと」
「約束の山に登ったら、もう、それで思い残すことは――」
「話を聞けーっ!」
 頬を両手で挟まれる。あおいは頬をふくらませ、私を見ていた。
「あおい……?」
「なんで、そうなるのさ。私、まだ何も言ってないじゃん!」
「でも、聞く必要なんてない。私は同性のあおいのことが好きになっちゃって、でも、あおいは女同士が無理だって……」
「でもさ、私、ひなたとお別れにはなりたくない。親友だと思ってるの、私だけ?」
「違っ……あおいは、私にとって、大切で」
「だったらもう、私が合わせるしかないでしょ」
「合わせる、って?」
「ひなたはラブで、私はライクかも知れないけど、私だってひなたの事は好きだよ。だから、谷川岳だけで終わりたくない。わがままかも知れないけど、もっと、一緒にいたい」
「でも、それじゃあ……つらいよ。好きな人に、振り向いてもらえなくて、それでもずっと一緒にいるなんて、耐えられない」
 届きそうで届かない場所でずっと生殺しにされるなんて、拷問のようなものだ。
「だから、合わせるって言ってるでしょ」
「なんの……こと?」
「ひなたは、私とキスがしたい?」
「うん……」
「じゃあ、してもいいよ。恋人にはなれないけど、ひなたのしたいこと、受け止めるから。他の人なら絶対に無理だけど、ひなたなら、いいよ」
「本当……に? 気持ち悪いんでしょ」
「正直言うと、ちょっとね。でも、ひなたと友達やめるのよりは、全然まし。だから、私が我慢する」
「ごめん」
「謝んないでよ。私の方こそ、ひなたの気持ちは受け入れられないのに、友達はやめたくないなんて、無理言ってるんだし」
 そう言って、あおいは心底申し訳なさそうな顔をする。
 あおいにそんな顔をさせているのは、全て私のせいだ。
「だからさ、ひなた、いいよ」
 目をぎゅっと瞑って、あおいが顔を近づけてくる。両手を固く握りしめ、小刻みに痙攣させている。
「あおい」
 両肩に手を置くと、ガチガチに強ばって、全身に力が入っているのがわかる。
 我慢する、という言葉は嘘ではない。あおいは本当に女同士でキスをするのが嫌で、それでも私のために耐えてくれようとしている。
 本当に申し訳ないと思う気持ちと、それでも我慢してつきあってくれることに対する感謝と、単純にあおいと触れ合えることの喜びが、入り交じる。嬉しいのか悲しいのか、それとも辛いのか、今の私にはこの感情の正体がわからない。
「するよ」
 あおいの体が、怯えるようにびくりと震えた。
 私はそれに気づかないふりをして、ゆっくりと顔を近づける。
 そして、触れる。
 あおいの唇は、固く閉じられて、歯を食いしばって震えている。ガチガチになっているのがわかる。
 左右にひきつった唇は、薄くのばされて、その奥にある固い歯の感触が感じられるような気がする。
 キスをしているというのか、固いものに触れているのか、いったい何をしているのかわからなくなる。
 ただ「一線を越えてしまった」という、罪悪感があった。
 こんなに味気ないキスなのに、自分自身の心臓の鼓動が聞こえてくるようだ。
 キスをして確信した。この気持ちは勘違いじゃなくて、私は本当に、あおいを好きなんだ。
 あおいはどうだろうか。
 薄目を開けて、あおいの目尻に涙がたまっているのを見て、私の気持ちは急速にしぼんでいった。
 私は、少し強引にあおいの肩を両手で押して、体を離す。唇同士の接触をやめた。
「ひなた、もういいの?」
 子供のように見えるあおいだって高校生だ。本当ならば、こんなものではすまないのは、わかっているだろう。
 だから、薄目をあけて、おそるおそる、そう問いかけてきた。
 私だって、それ以上のことはしたい。でもあおいが辛そうで、もうこれ以上は無理だった。そう言うとまた嫌な気分にさせてしまうので、私は喉から出そうな言葉を飲み込む。
「うん……ありがと」
「いいよ」
 あおいは、ふうと息を吐く。
「案外、普通だね」
 そう言って笑うけど、あおいの声はわずかに震えている。空元気なのはすぐにわかった。
 触れただけなのに、やっぱり嫌なものは嫌なのだろう。
「ごめん」
「謝んないでよ」
「本当、あおいに、私……」
 言葉が詰まる。何を言いたいのか、自分でもわからない。
「ごめん、ごめっ……」
 ただ、嗚咽が漏れる。
 唇同士を触れあわせただけのキスだ。海外なら挨拶でするような、本当に軽いもの。
 でも、これで、私たちはきっと、戻れないところに来てしまった。
 しかもそれは、自分だけでなく、あおいまでそこに引き込んでしまった。
 それがたまらなく、悲しかった。
「泣くなよぉ。ばかひなた」
 おでこにごつんと衝撃がある。あおいのおでこが押しつけられ、ぐりぐりとこすりつけられる。
「キスして、泣かれるって、なにさ。駄目だよぉ。そんなのっ、私まで……」
 あおいの口からも嗚咽が漏れ始める。
「ごめん、あおい……」
「いいって、言ってるじゃん」
 ぎゅっと、私の体に腕が回される。
「ひなた……お互い、つらいかも知れないけど、二人で、頑張ろ」
 そうして私たちは、抱き合って、ただ涙を流し続けた。


 真っ暗な部屋。
 静まりかえった宵闇の中、ぴちゃぴちゃと、水音だけが響いている。
「あおい……」
 カーテンの隙間からの月明かりでぼんやりと見えるシルエットを抱きしめて、私はただその口内をむさぼる。
 私はあおいの歯の一本一本を、舌でなぞる。歯磨きのミントの風味が抜ける。
「んっ――」
 舌同士が触れると、あおいの鼻から吐息が抜けた。固く縮こまった舌を、私は自分の舌でなぞる。
 ざらりとした表面に、ぬるりとした裏側の感触。同じものなのに、全然違った感触がある。
 胸の前で、両手で握り拳を作るあおい。私が両手を触れさせると、あおいは手を開き、私が指を絡めるのを受け入れてくれる。
 お互いの指の間に、相手の指が入る。
 私はその状態で、あおいの両手を押しつける。上半身を浮かせて両手で体重を支えて、あおいをベッドにはりつけにする。
 唇に、まぶたに、額に、頬に、耳に、首に、とにかくキスの雨を降らせる。
 あおいの体がそのたびにピクピクと反応するのを、両手と、絡めた両足で押さえつける。
 再び深く口の中に舌を差し込んで、舌の裏側をなぞる。
 あおいの口内に溢れてきた唾液をすすると、じゅるじゅると、ひどく淫らな音が響く。口の端から垂れた唾液も、顔に舌を這わせて舐めとる。
「あおい、あおい」
 熱病のような衝動が頭を支配していた。この感触も、味も、匂いも、知っているのは、この世で私だけだ。
 もっと、知りたい。あおいの全てを覚えたい。
 唇を唇で挟む。舌を吸う。頬の内側を舐める。
 私は気の済むまで、そんなことを、続けていた。


 私が離れると、この時間は終わる。
 あおいはベッドから体を起こし、着崩れたパジャマを整えると、自分のカバンからポーチを取り出して、何も言わずに部屋を出て行く。
 私はベッドで一人、横たわっていた。
 今頃あおいは、洗面所で顔を洗って、歯を磨いているはずだ。それから、汗ばんだ下着を取り替えて、戻ってくる。
 だいたい、三十分くらいはかかるだろう。じっくりと歯を磨いて、何度も何度もうがいをして、口に残った不快感を少しでも消したいのだろう
 あおいが部屋からいなくなって、部屋で一人になると、急に体から熱が引いていく。頭の芯が冷えて、衝動が冷めていく。
 あの日から、私たちは、こんな狂った関係を続けている。
 週末、月に何度かあおいが泊まりに来て、その日の夜は大抵、キスをする。家族が寝静まってから、私が求めて、あおいが受け入れる。
 最初は唇同士を触れさせるだけのキスだったけど、いつの間にか、こうなっていた。舐めて、舌を差し込んで、吸って、飲んで。
 思いつくことはなんでもした。やりたいことはなんでもした。
 でも、キス以上のことは、求めない。
 たぶん、私はその先もしてみたいと思う。あおいも、受け入れるだろう。
 でもそれはきっと、やってはいけないことだ。キスだけで我慢していないと、本当に駄目になる。
 もちろん、既に踏み越えていることは、自分でもわかっている。
 でも、キスをしなければ、きっと私はあおいと一緒にいることが耐えられない。
 本当はあおいの心が欲しい。あおいに自分の気持ちを受け入れて欲しい。
 でも、それは叶わない夢だ。それがわかっているから、その気持ちを少しでも抑えるために、あおいにキスをする。
 でもそれは、穴の開いたコップに水を入れるようなものだ。その瞬間だけは満たされるけど、後にはただ虚しさが残る。


 あおいが戻ってきて、何も言わずに床に敷かれた布団に潜り込んでいく。
 ああいうことがあると、私たちは何も話さず、そのまま眠る。別に取り決めをしたわけではないけど、そういうふうになっていた。
 約束を果たしても、私たちは山登りを続けた。心配していたけど、それは結局、何も変わらなかった。
 私は何を焦っていたのだろう。
 もし、私がもう少し余裕を持っていれば、自分自身のあおいの好意を、ただの親友同士の感情と思いこんでいただろう。
 私があおいの事を好きだと気づいて、あおいが私の好意を知って、普段の行動はそんなに変わっていない。
 でも、それまでは何気なく手をつなぐことがあったのに、なくなった。私が手に触れると、あおいの体がびくりと反応して、緊張したように強ばる。
 そういうのがつらくて、私はもう、あおいと手をつなぐことはできない。キスの時にはもっと大胆な事をしているけど、外では、もう、きっと。
 好きな人の匂いのする布団に包まれて、私は嗚咽を漏らす。あおいはきっと、まだ起きていて、私の様子に気づいているのだろうけど、何も話しかけてこない。
 体は繋がって、心だけが遠くなって。
 こんな関係になった時、あおいは「二人で頑張ろう」と言った。
 正直なところ、その時は、つらいのは私に付き合ってくれるあおいだけで、私はちっとも辛くないと思っていた。
 あおいを好きになったことは後悔していない。でも、好きだなんて、気が付かなければよかった。
 あの時の言葉の意味を、今の私は、よく理解していた。

ぼくの考えた雑なエロ同人2014冬 〜キョン! AVを撮るわよ!〜

・表紙

B5サイズ・24P
無料配布(ただしブースはありません)


・掲載内容
1.野崎「――というわけで、佐倉に頼みたいことがあるんだが」(pixiv) (12.5kb)
2.ハルヒ「キョン! AVを撮るわよ!」(pixiv) (11.4kb)
3.東郷美森「満開の影響でおちんちんが生えてしまいました」(pixiv)(14.5kb)
4.ひなた「あおいのことが好きかもしんない」(pixiv)(27.1kb)


 改めて説明しておきますと、コミケで落選したけど上京することになったので、なんとなく作ってみたものです。
 委託とかなしで知り合いとか声をかけてくれた人だけに配ったものなので、特に「なくなったから再販」というのはないと思います。

東郷美森「満開の後遺症でおちんちんが生えてしまいました」

 朝、目覚めるたび、東郷美森は絶望感に包まれる。
 股の間に違和感がある。バーテックスとの戦いの際に満開した後遺症で生えてしまった異物は、朝になるたびに存在を主張する。
 自分の体が変化して、美森はそれがどういうものなのか徹底的に調べた。医学的な文献や、ネットの情報。保健体育、生物の教科書など。手に入れられる限りの知識を集めた。
 これは俗に『朝勃ち』と呼ばれるものだ。性的興奮や刺激を受けなくても、寝るたびに勝手にこうなってしまう。生理的な現象である。
 美森はこの状態のものにひどく嫌悪感を持っていた。平常時はぶよぶよとした肌色の芋虫のような物体だが、どこか愛嬌はある。しかし、固く肥大した状態になると、妙にツヤのある赤黒い先端部分が包皮から飛び出し、全体が大きく上に反り返る。血管が浮き出て、ビクビクとする肉塊は、醜悪としか表現しようがない。
 不快感を覚えるのは見た目だけではない。普段は別のことに集中していれば存在を忘れられるのに、この状態では異物感が強く、何をしていても常に存在を意識させられてしまう。こんなものが体についていることを、一秒でも忘れていたいというのに。
 ベッド脇を一瞥する。下肢の機能を失っている美森のベッドの横には車椅子があり、いつもそれを押してくれる人物の顔が思い出される。
 結城友奈。隣の家に住む、同い年の朗らかな親友。初めて会った時、車椅子に乗る美森に哀れみや奇異の目を向けることなく、自然に接してくれた優しい少女。
 彼女もバーテックスと戦う使命を帯びた、勇者の一人だ。勇者ということを抜きにしても、彼女の気高い心の有り様は、美森にとって尊敬に値する。
 遠くから呼び鈴の音が聞こえてきて、美森はため息をついた。掛け布団を外すと嫌でも視界に入る下腹部から目を背け、のろのろと車椅子の上に移動する。
 車椅子に座った事で、足の間に挟まった固い異物を太股に感じ嘔吐感を覚える美森だが、腕に力を入れ車輪を回す。
「東郷さん、おはよう」
 玄関の外から聞き慣れた声が聞こえてくる。
「今日は体調、どうかな? 大丈夫だったら一緒に学校に行かない?」
「ごめんね友奈ちゃん。今日も体調が優れなくて」
「そっか。じゃあ、元気になったら一緒に行こうね」
 そんなやりとりをして、あっさりと立ち去ってしまう。
 下腹部に異物はあるが体調は問題ない。単なる仮病だ。彼女もきっとわかっていて、この茶番に付き合ってくれている。
「ごめんなさい友奈ちゃん」
 誰もいない玄関の向こうに、美森はもう一度だけそう言った。


 部屋に戻り、再びベッドに横になる。
 あの日から美森は学校には一度も行っていない。全てがどうでもよくなり、一日の大半を、自分の部屋で無為に過ごしている。
 外に出たのは、たった一度きりだ。
 今の美森の状態を一言で表現するのなら、いわゆる引きこもりである。家族にも何も言われないが、自由というほど気楽なものではなく、ただ重苦しい虚無感の中で時間をすり減らしている。
 恐らく友奈に全てを委ねているのだろう、勇者部の他の面々も無理に登校を勧めてくるようなことはない。かと言って心配されていないわけではないのは、長いつきあいでわかっている。もし学校に行けば、何事もなかったように迎えてくれる光景が、実際には見てもいないのに目に浮かぶ。
 しかし、美森はそうする気にはなれなかった。
 こんな醜悪なものを足の間にぶら下げて友奈の前に姿を見せるのが、どうしても耐えられない。
 仮にこんなものが付いていると知っても、彼女は何も変わらずに接してくれるだろう。それどころか――
「っ」
 美森は慌てて自分の脳裏に浮かびかけた考えを振り払う。
 彼女の笑顔、一緒に温泉に入った時に見た素肌、抱きしめられた時の体の感触、彼女の匂い、声。結城友奈という存在について考えるだけで、股間に生えた異物は大きくそそり立って固さを増す。
 美森の心は異物に蝕まれていた。かけがえのない親友を、性の対象として見るようになってしまった。
 彼女を滅茶苦茶にしたい。
 その欲望が日に日に増しているのを、美森は感じている。彼女の顔を見たら、理性で抑えられるかどうかわからない。
 友達思いの優しい彼女は、美森が頼めばどんなお願いでも聞いてくれるだろう。だからこそ、駄目なのだ。気高く純真な友奈を、欲望を満たすために、汚して、堕としてしまう。
 満開の後遺症は元には戻らない。だから美森は、自分には二度と彼女に前に姿を見せる資格がないと、そう思っていた。


 支給されたスマートフォンの警報が鳴る。
 勇者にはバーテックスを撃退する使命が課せられ、バーテックスが攻めてくるたびに戦いに駆り出される。
 あれから何度か侵攻を受けたが、美森は戦いには参加していない。神樹が作り出した結界である樹海に巻き込まれても、何もしないでただ戦いが終わるのを待った。スマートフォンでは勇者同士それぞれの位置が把握できるので、他の面々も美森がどこにいるかわかっているはずだが、接触してくることはなかった。
 そのうち、樹海に転移させられることもなく、ただ時間の止まった現実世界に残ることも増えた。精霊達は戦いに参加させたかったようだが、美森は完全に無視を決め込んだ。
 自分の部屋に引きこもり、バーテックスとの戦いを拒絶する。
 もはや、東郷美森は勇者ではなかった。


 呼び鈴の音で目を覚ます。
 家から出なくなった美森の生活は、昼夜の区別がなくなっている。寝たい時に寝て、食べたい時に食べる。獣のような生き方になっていた。
 それでも、この瞬間だけは「朝だ」と実感できる。彼女が迎えに来てくれるこの時が。
 美森は重い体を無理矢理に動かし、ベッドから車椅子の上に移る。腕の力だけで体を持ち上げて車椅子に座り、足を引っ張って移動させる。
 体を前のめりにしたせいで腹部に異物が触れ眉をひそめるが、美森はその感触を振り切るように車椅子を動かす。
 不摂生な生活をしているせいか、腕に力が入らない。普段より重く感じる車輪を回し、時間をかけて玄関に到着する。
「東郷さん、おはよう」
 部屋を出てしばらく時間が経ったので既にいなくなっている可能性も考えたが、玄関の外からは普段と変わらない声が聞こえてくる。
 その声を耳にして、体の芯に熱が入ったような感覚を美森は感じた。
「今日は体調、どうかな? 大丈夫だったら一緒に学校に行かない?」
「ごめんなさい友奈ちゃん」
 嘘をついて。勇者の使命を押しつけて。
 親友相手に欲情してしまって。
「本当に、ごめんなさい」
 美森の体に生えた異物は、まるで金属になったかのように固く、膨張していた。
「東郷さん?」
「今日も学校には行けないの。友奈ちゃん、もう――」
 来なくてもいい。そう言いかけて、美森は言葉を切る。
「もう、友奈ちゃんは学校に行かないと。遅刻してしまうかも」
 彼女に会う資格はないのに、この扉ごしの逢瀬だけは失いたくないと、美森はそう思ってしまった。
「そっか。じゃあ、また明日ね」
 若干の落胆が感じられる声。外にいる友奈が、ゆっくりとした足取りで、扉から遠ざかっていく。
「ごめんなさい」
 車椅子の上に座り、遠ざかっていく足音を聞く。
 そこで、美森が違和感を覚えるのと、外からガタガタと大きな物音が聞こえたのは同時だった。
「友奈ちゃん!」
 思わず飛び上がりそうになり、美森は前のめりに車椅子から落ちる。とっさに顔を打たないようにかばった腕に痛みが走る。
 どこか傷めたかも知れないが、そんなのは今の美森にはどうでもいいことだった。両手で這うようにして、腕の力だけで体を起こして玄関の扉を開け、玄関の外にいる親友の姿を見る。
「そんな――」
 そうして美森は崩れ落ちる。
 玄関のすぐ外で転倒していた友奈は、頭と腕に包帯を巻いている。
 そして彼女の腕には、肘のあたりで固定された金属の杖が取り付けられていた。
 わかっていたはずだ。美森が欠ければ戦力は落ちる。戦力が落ちれば、バーテックスとの戦いが困難になる。困難になれば――誰かが無茶をしなければいけなくなる。
 そういう時、率先して自分の身を犠牲にするのが誰か、考えるまでもない。
「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
「東郷さんも辛かったんだよね。謝らなくてもいいよ。むしろ、私の方が謝らないといけないんだから」
「そんな! 友奈ちゃんに悪いところなんて、あるはずが」
「ごめんね。もう、東郷さんの車椅子、押せなくなっちゃった」
 そう苦笑いを浮かべる友奈に、美森はただ、泣き崩れた。


「本当は、東郷さんが出てきてくれなくて、ずっとほっとしていたのかも知れない」
 ひとしきり泣いて落ち着いた美森は、友奈と共に自室に戻った。
 派手に転倒した友奈だが、大きな怪我はなかったらしい。小さな擦り傷などは、美森がきちんと救急箱の薬品で手当している。泥のついた包帯は真新しいものに交換した。
「なんでかな、東郷さんには、情けない私を見せたくなかったんだ」
 彼女の座る椅子の横には、杖が立てかけられている。
 頭や腕に包帯が巻かれ、片方の目は、焦点が合っていない。
 それらは、美森が戦いを放棄した結果だ。友菜が失ったもの、美森の罪そのものを、端的に示している。
「だからね、東郷さんが姿を見せてくれなかった気持ち、今なら私にもわかるよ」
 彼女の失ったものは、味覚、片目の視力、片足の機能。
 いくつかの機能を失って、身体中に傷を負って、それでも気丈に振る舞う友奈の姿を、美森は眩しく感じた。
「友奈ちゃんに比べれば、私なんて」
「そんなことない」
 友奈は大きく首を振る。
「ごめんね東郷さん、私、もう知ってるの。ちょっと無理を言って、大赦の人から教えてもらったんだ」
「……そうなの」
 美森が最初から失っていたものは、両足の機能、記憶。
 新たに失ったのは、片方の聴力、それともう一つ――
 美森はそっとスカートをめくりあげる。下着を持ち上げるそれに、友奈の視線を感じる。
「満開の後遺症でおちんちんが生えてしまいました」
 固く大きく膨張し、ビクビクと痙攣する男性器。
 これが生えた時から、美森は薄々わかっていた。そしてそれを確認するために、大赦の病院で精密検査を受けた。
 最初ははぐらかされそうになったが、多少手荒な方法で脅し、現状を正確に把握することができた。
 満開の後遺症は、必ず何かの機能を奪っていく。
「私が失ったのは」
 子宮。卵巣。女性器。
「お腹に赤ちゃんを宿し、育み、産むための、全て」
 美森の体からは、子供を作るための機能、そのために必要な全てが失われていた。
 この醜悪なものは、なくなったそれらの代用として、ついてしまったのだろう。
 女としての機能を失った喪失感と、親友に対し性衝動を抱いてしまう罪悪感。それらが美森をずっと苦しめ続けていた。
「東郷さん!」
 友奈が椅子から飛び上がり、ふらつきながらも美森にしがみつき、強く抱きしめてくる。
「辛かったよね。一人でずっと、悩んでいたんだよね」
 美森の頬にぽたりとしずくが落ちる。
「だ、駄目!」
 密着すると、友奈の肉体が感じられる。髪の匂い。幼さを残した柔らかい体。細い手足。体温。息づかい。
 その全てが、美森を蝕む。
「お願い、離れて」
 親友に対する愛情。友愛、尊敬、感謝、それらの感情が、おぞましい衝動に上書きされてしまう。
 ただ、目の前にいる無防備な雌を犯したい、と。
「私が私で、なくなってしまう」
 情けなくて涙がこぼれる。友奈を引き離さなければいけないのに、押し退けようとする腕に力が入らない。美森の振る舞いは、事情を知らなければ、ただじゃれているようにしか見えないだろう。
 離れなければいけないと頭では理解しているのに、美森の体が友奈を求めて、離そうとしないのだ。
「私、友奈ちゃんを、いやらしい目で見てる。私、汚いの。だから、友奈ちゃんまで、汚れてしまう」
「東郷さんは汚くなんてないよ」
「でも――」
「勇者部五箇条、ひとぉーつ!」
「ゆ、友奈ちゃん?」
 突然声をあげる友奈に、美森は体をすくめてしまう。
「なせば大抵なんとかなる!」
「なんとか、って」
 世の中には、どうにもならないことだってあるのだ。美森の体からは女性としての機能が欠落し、もう二度と戻ってくることはない。
「なんとかなるよ。東郷さんができないことは、代わりに私がやる。もし東郷さんが誰かと結婚して、赤ちゃんが欲しくなったら、私が作る」
「それは」
 美森は絶句する。
「歩けない私のために車椅子を押してくれていたのとは、訳が違います」
「東郷さんが選んだ人なら、大丈夫だよ」
 友奈の目はどこまでもまっすぐで、その言葉に偽りはない。美森にはそれがわかる。
 自己犠牲なんて言葉では片付けられない。困っている人を助けるのが勇者だとしても、それはあまりにも献身的すぎる。
自分には、彼女にそんなことをしてもらう資格なんて、もうないのに。
「どうして……」
「ん?」
「どうして友奈ちゃんは、そんなに優しいの? 友奈ちゃんは強くて、誰にでも優しくて、困っている人のためなら自分の犠牲も厭わなくて」
 まさに、勇者という存在そのものだ。
「東郷さん、ごめん。先に謝っておくけど、私これから、最低なこと言うよ」
 美森に回された友奈の腕が、きゅっと絞まる。
「東郷さんの体が男の子になったって知って、私、少しだけ嬉しいって思っちゃったんだ」
「え――?」
「ずっと友達だって、親友だって思っていたのに、おかしいよね。東郷さんが男の子なら、恋人になれる……なんて、考えたの」
「そんな」
「だから私、東郷さんの思ってるほど、綺麗じゃないよ。東郷さんの代わりに赤ちゃんを作ってもいいって言ったけど、本当は、知らない男の人となんて嫌。東郷さんだから、東郷さんの赤ちゃんだから、産んでもいいって……ううん、産みたいの」
 友奈の言葉を聞き、美森は深い霧から抜け出したような気持ちになる。
「それでは、私の気持ちも?」
 男性器が生えてから抱いていた欲望。
「私は友奈ちゃんを相手に、淫らなことをしたい、滅茶苦茶に犯してしまいたいと、ずっと考えていた」
 緊張のせいか、抱き締めてくる友奈の体に力が入ったのを、美森は感じる。
「でもそれは、ただ『女性』相手に性欲を満たしたいのではなくて、相手が友奈ちゃんだから、そう感じていたのかも。体が変化してしまったから、友奈ちゃんを異性として意識して、男の子が好きな女の子に抱くような感情を、募らせていたのかも知れない」
 美森は思い返すが、友奈以外の女性を相手に、そのような欲望を抱いてはいない。試しに勇者部の他のメンバーを思い出しても、そのような衝動は湧いてこない。
「私はたぶん、友奈ちゃんに恋をしている」
 そう言葉にして、美森は自分の心を蝕んでいたどす黒い欲望が、本当はそれほど罪深いものではなかったのではないか、と思えるようになっていた。
「じゃあ……両思いだね」
 美森の体に回されていた腕から力が抜けて、友奈がわずかに体を離す。
「友奈ちゃん?」
 お互いの気持ちが通じ合って、少しでも離れたくない。そんな気持ちになる美森だが、その額に友奈の額が押しつけられた。
 その顔は、はにかんでいる。
「駄目だよ東郷さん、あのままじゃ、近すぎてできないもん」
「近いって――」
 美森は目を見開く。
 すっと横に顔を傾けた友奈は、目を閉じていて、その唇は、美森の唇と重なり合っていた。
「ん――」
 目を閉じると、美森のすぐ目の前にあった顔が見えなくなった。
 こうなると、唇の感覚だけが意識される。
 唇と唇だけを重ねる軽いキス。それだけなのに、深く繋がったような気持ちになれる。
「東郷さん……」
 手を握られ、恋人同士のように指を絡められる。美森もそれにあわせて、友奈の手を握り返す。
 唇、手。友奈に触れた部分から温かいものが流れ込んできて、自分の中にわだかまっていたものが洗い流されていく。美森はそう感じていた。
 もっと、もっと深く繋がりたい。美森は唇の隙間からわずかに舌を出す。
 舌の先にぷにぷにとしたものが触れると、友奈の体がびくんと震えた。握ってくる指にも力が入り、唇が強ばって固くなったのが美森にも感じられる。
 しかしそれも一瞬のこと。友奈の体から力が抜けて、唇に隙間ができると、美森の口内に吐息が流れ込んできた。
 おっかなびっくり、舌をのばす。
 唇に触れながら、隙間を通し、歯に触れる。美森が握り合った手に力を込めると、歯と歯の隙間が大きく開かれて、舌の先にしっとりとした温かい空気を感じる。
 更に美森は、奥へと差し入れる。
 そこに、表面がざらりとした、柔らかい塊があった。
 美森がその表面を舌先でなぞると、まるでスイッチになっているように、友奈の体がびくんと痙攣する。
 くすぐったそうに縮こまるそれを追いかけて、美森は友奈の口の中を動き回る。
 ぴちゃぴちゃと、二人の口の間から、淫靡な音が漏れる。それを耳にして、美森はとんでもないことをしていると、実感する。
 いきなりはまずかっただろうか。
 美森はゆっくりと舌を引き抜いて、友奈から体を離す。唾液が混じり合った唾液が糸を引き、二人の間でとぎれ、わずかに美森のあごを濡らした。
「友奈ちゃん?」
 呆けたような友奈に、美森は少しだけ不安感を覚える。不快ではなかっただろうか。それとも、下手ではなかっただろうか。
「味が……」
「味?」
「東郷さんの味がわからないのが、ちょっとだけ、もったいなかったかなぁって」
 こうなる前にキスしたかった、そう笑う友奈に、美森はひどく赤面した。


 現実は過酷だ。
 お互いの気持ちを確かめ合っても、世界は何も変わっていない。本当に子供を作れるような年まで、自分たちが生き延びられると、美森には思えない。
 それでも、約束を胸に抱いて戦う。再び勇者として立ち上がろうと、美森はそう決意していた。

冬コミの本の一部を公開します(3/4)

 冬コミ前に二つほど公開していましたが、今回はもう一つ公開します。
 次回で4つ全てになります。


1.野崎「――というわけで、佐倉に頼みたいことがあるんだが」(pixiv) (12.5kb)
2.ハルヒ「キョン! AVを撮るわよ!」(pixiv) (11.4kb)
2.3.東郷美森「満開の影響でおちんちんが生えてしまいました」(pixiv)(14.5kb)
4.ひなた「あおいのことが好きかもしんない」(コミケ後に公開します) (27.1kb)

コミケお疲れ様でした

 今回、特にサークル参加ではなかったのですが、知り合いのところで売り子とかしていました。
 コピー本の方は後日全文を掲載したり、手直しした部分はこっそり修正する予定です。