今日の長門有希SS

「女が電気を消してくれと言うのは、恥ずかしいってよりも、仰向けになった時に眩しいからなんだ」
 授業の合間の休憩時間。教室移動やトイレに行く用事がなければ、基本的に暇である。次の授業のための準備時間ではあるが、教科書やノート、場合によっては辞書などを用意するのは、それほど時間がかかるものではない。
 というわけで、俺たちはクラスメイトと話して時間を潰すことになる。席が近いハルヒに話しかけられ、気が付けば次の授業の予鈴が鳴ることも少なくはないが、谷口や国木田など男友達と会話して過ごす場合も多い。
 本日の話題は「なぜモテる男は間接照明を導入するか」といったもので、結論は冒頭に谷口が述べた通り。要するに、天井から吊す一般的な蛍光灯などでは、女性と性的な行為をする際に眩しく感じさせてしまう、とのことだ。
 間接照明とは一度何かに反射させて部屋を照らすものであり、光源が露出しているような照明に比べると眩しくはない。天井から吊すタイプもあり、それは天井に光を照射し、その反射光で部屋を照らすとか。
 ともかく、谷口の説によると、部屋の明かりを間接照明にしてしまえば女性の顔や体を存分に見ることができる、という話だ。
 先にも述べたように、今は授業の合間の休み時間である。俺たちが会話をしているのは教室で、教室には当然のごとくクラスメイトもいる。人類の半分は女性であるという言葉はあるが、クラスの半分も女性である。つまり、俺たちの周囲には女子生徒も多く、やや熱を帯びた谷口はやや大声になっており、会話している内容はけっこうな人数に聞こえているだろう。
「……」
 太めの眉をしかめる委員長なんかもいる。もしここがアメリカだったら、谷口はセクハラの容疑で訴訟を起こされていてもおかしくはない。そして恐らく敗訴するだろう。証人はこんなにいるんだ。
「ところで谷口、眩しいのは女の子に限らないと思うんだけど」
「……どういうことだ?」
「いや、どっちが仰向けになるか決まってないじゃない」
「……ん? あ、ああ、そういうことか」
 百戦錬磨で今まで数多くの女性と浮き名を流したことで知られる谷口だが、咄嗟には国木田の言っている言葉の意味がわからなかったようだ。
「おいおい、教室でそんな品のないことを言うなよ」
 突然生真面目な顔になった谷口がそう口走る。どちらかと言えば谷口の方が品がなかったように思うんだが、こういった下世話基準というのは人によって違うものなので、谷口的には自分の口にしていた内容はセーフでも国木田のはアウトだったということだろう。
 とまあ、そんなどうでもいい話をしているうちに予鈴が鳴り、俺は自分の席に戻る。
「教室でエロい話してんじゃないわよ」
 聞こえていたらしい。不機嫌そうなハルヒが俺を見ていた。
「俺は何も言っていなかったと思うが」
「話に加わっていたら一緒よ」
 はあと呆れたように溜息を吐く。
「全く、あんたのせいでSOS団が変な目で見られるでしょ。自覚してんの?」
 そもそも、SOS団がおかしな存在として認識されているのはハルヒのせいだと思うんだが。こいつこそそれを自覚しているのだろうか。
「ちゃんと聞いてんの?」
「へいへい」


「で、お前も眩しいと思ったことはあるのか?」
「ないこともない」
 二人きりになった時に、谷口が話していた内容を思い出して話を振ってみると、長門は首を縦に振って肯定した。
「しかし、瞳孔の大きさを変えることで光量を調整することができる。些細なこと」
「猫みたいだな」
「原理は同じ」
 猫の場合は光を多く取り入れることで暗い中でも物をみることが出来るようにするのであって、やっていることは逆になるが。
「でも、俺はそういう人間離れした能力は持っていないな」
「サングラスをかければいい」
 想像してみる。
「特殊なAVか何かみたいだな」
「わたしもどうかと思う」