今日の長門有希SS

 さて、改めてSOS団について考えてみよう。
 俺が余計なことを口走ってしまったためにハルヒによって設立されたSOS団は、これまで様々な活動を行っている。その中には校内での活動も多く、おかげでこの高校ではよくわからないことをする集団として認識されてしまっている。実際、おかしなことをしているので反論の余地はない。
 しかしながら、奇行をするのは主にハルヒだ。ハルヒの巻き起こした異常を元に戻すために一般的には奇行に見えることもしないわけではないが、あまり多くはないはずだ。
 などと思いつつ部室のドアを開けた俺の目に、妙な光景が飛び込んできた。
「……」
「……」
 窓際に長門と朝比奈さんが向かい合っていた。ただ向かい合っているにしては妙に接近しており、お互いの顔も近い。
 しかも長門の手は朝比奈さんの顔に添えられ、朝比奈さんの手は長門の腰に……って、どういう状況だこれは。
キョン、邪魔よ!」
 ふらふらと部室に入ったところで真横から声がかかる。
「そこにいたら撮影できないでしょ」
 ドアの真横に屈んでいたのはハルヒで、デジカメを構えている。向いている先は窓際の二人だ。
「堂々とした隠し撮りだな」
「なにバカなこと言ってんのよ。二人にはモデルになってもらって撮影してんの」
 冷静になるまでもなく、長門と朝比奈さんがラブシーンを演じるなんて普通ではありえない。つまり、ハルヒの意図によるものだと一瞬で気が付くべきだったのだが、あまりにも意表を突かれてしまったためにすぐにはその考えに至れなかった。
 なにより、二人の姿に目を奪われたというのが事実だ。長門は言うまでもなく、朝比奈さんも可愛らしい女性だ。その二人が絡み合っていれば絵にならないはずがない。
「百合っていいわよね」
 ハルヒがほうと息を吐く。二人の姿が美しいことは理解できなくもないが、俺は女性ではないし、なおかつ異性である長門を愛しているので百合について完全なる理解をできるはずはない。
「あたしだってノーマルよ」
「てっきりそっちに目覚めたのかと思った」
「バカなことを言わないで。もしあたしがそっちの人なら、撮影する側に回るわけないじゃない」
「それもそうだな」
 仮にハルヒがそちら寄りの嗜好であれば混ざりたいと思うのが当然だし、無理にでも混ざっていることだろう。長門の魅力は今さら語るまでもなく、朝比奈さんもこの高校では可愛らしい存在であることで名の知れた存在である。特定の女性に操を立てているのでなければ、絡まない理由などない。
「とにかくそこをどきなさい。まだ撮影が終わってないんだから」
「ふえっ、まだやるんですかぁ」
「当然じゃない。あたしはそんなにカメラが得意ってわけじゃないし、何枚も撮ってみないといいのが撮れないのよ」
「つーか、そんな写真を撮ってどうする気だ?」
「ホームページで紹介するに決まってるじゃない。アクセスが増えるし」
「撮影中止だ」
 俺はハルヒからデジカメをひったくり、中身を確認する。ここからだけでなく、逆から、上や下からといった様々な角度から撮影された写真がてんこもりだ。今以上の行為に及んでいる写真がないのでとりあえずほっとする。
「返しなさいよ!」
「断る。こんなもんをアップしたらどうなると思ってんだ」
「百合好きな宇宙人や未来人や超能力者がSOS団に興味を持って遊びに来るかも知れないじゃない」
「来るかそんなもん」
 百合が好きな時点でちょっと不思議な存在と言えなくもないが、そもそもハルヒが求めている不思議とはベクトルが違うはずだ。
「わからないわよ。大体、海外じゃ同性で結婚できる国もあるくらいだし、例えば未来の日本じゃ百合がスタンダードになっているかも知れないわ。だから、未来から来た人がSOS団のホームページを見れば、同士がいたと思ってくれるに違いないのよ」
 わけのわからない理屈に頭が痛くなってきた。
「いい返しなさい。まだ撮り足りないのよ」
 言ってハルヒは俺からデジカメを奪い取って撮影を再開した。
 止めさせようと思ったがハルヒは俺の言うことを聞きそうにない。ホームページを更新する時はどうせ俺にやらせようとするだろうから、その時に画像をアップしなければいいだけの話だ。
 と言うわけで、今は諦めて撮影の邪魔にならないように部室の隅に移動し――
「うん、次は脱いだ写真が欲しいわね」
「いい加減にしろ」
 やっぱり撮影を中止させた。