今日の長門有希SS

 前回の続きです。


「じゃあ集計するわよ」
 時間ギリギリで折り畳んだ紙を提出すると、どうやら間に合ったらしくハルヒがそれを開く。
「雑煮」
 無難なところだが、最初に思いついたんだから仕方がない。マーカーを持った朝比奈さんが、ホワイトボードに「おぞうに」と書き、横棒を引く。
「次はお汁粉」
 これも定番だ。朝比奈さんは「おしるこ」と書いてこちらも横棒を一本。
「次もお汁粉。意外と強いじゃないお汁粉」
 縦棒が引かれ、T字型になる。
「餅もいいけど白玉団子が入っているのも美味しいのよね」
 ちなみに材料である白玉粉は米を粉末状にした物であるので、白玉団子と餅は成分としたには似たような物である。しかしハルヒの言いたいことはわからなくもない。
「次は雑煮。これで二対二」
 雑煮の横にも縦棒が引かれ、Tになる。
「またお雑煮。逆転したわね」
 横棒が引かれる。文字では表現する事ができない図形になった。
 さて、残るは一枚。この時点でお汁粉が雑煮を上回ることがないと決定した。ハルヒの書いた票だけ数枚分の勝ちがあるとか言い出したら話は別だが、それなら最初からこんなことはしないはずだ。
 今までの流れを考えると、恐らく鶴屋さんの家あたりでこの餅がなくなるまで雑煮か汁粉を食い続けることになるのだろう。俺は未来人でもエスパーでもないが、それくらいは読めるようになってきた。
 しかし、この時点で「磯辺焼き」などただ焼いて食うという食べ方が出ないのは意外だったが、ハルヒが「料理」と口にしたのが原因だろう。
「次は……ふうん、面白いのが来たわね」
 ハルヒはその紙を開いてにやりと笑う。どうやらここまでに出た二種類ではないようだが、これで雑煮の勝ち越しが決定した。
「何だ」
「これよ」
 ハルヒが出した紙には、まるでワープロで印刷されたような丁寧な字で「おかき」と書いてある。確かにおかきの原料は餅だが、あまり一般的ではない。朝比奈さんも戸惑いながら「おかき」と横棒を書いている。
「これで決まりね」
 ホワイトボードを見るまでもなく、雑煮の優勝だ。
「この餅がなくなるまでおかきを食べるわよ」
「ちょっと待て、何のための投票だったんだ」
「票が集まるような料理って、もうみんな食べてるってことじゃない?」
 それは否定しない。雑煮は餅や具を汁に入れた料理で、手軽だし定番なせいか一般的な家庭で正月を過ごせばまず口にするものだ。汁粉はまだ食っていないが。
「一位になった雑煮なんてみんな飽きてるはずだし、ほとんど票が入らないような料理を食べようと思っていたのよ」
「だからおかきか」
「そう。本当は名前が挙がった時点で失格にしようと思っていたけど、おかきなんて面白いアイディアをみすみす逃すのも惜しいわ。だから食べるの」
 しかし、おかきなんて普通に食べるのに飽きてしまった余り物の餅を無くすための最終手段みたいな料理だと思うけどな。途中まで雑煮や汁粉で消費して、そこからおかきって方法はないのか。
「余り物なんでしょ、これ」
「そうそう、うちで食べきれなくてさっ」
 そのような意味の余り物かどうかということではないのだが、ハルヒの意思を曲げさせるのはもはや不可能だ。
「じゃあ、今日はおかきパーティよ! 場所は……鶴屋さんのところ使える?」
「ばっちり、全部おまかせするさっ!」


 というわけで、この日は鶴屋さんの家で延々と餅を揚げては塩をふって食べ続けることになるのであった。