今日の長門有希SS
「やあやあ、お邪魔するよっ!」
放課後、例によって例のごとく無目的な時間を過ごしていると、部室に鶴屋さんが現れた。その両手には大きめのレジ袋が一つずつぶらさがっており、何が入っているのかわからないがぱんぱんにふくれあがっている。
「それ、何かしら?」
ハルヒもその存在に気が付いたらしい。鶴屋さんは「見てごらんよっ」と袋を机の上に置き、中身をぶちまける。
透明なビニール袋に小分けにされたのは餅だった。鏡餅を割ったような物や四角い物など形がばらばらで、白いのが大半だが緑色の物も混じっている。
「いやあ、頂き物なんだけど余っちゃってねっ」
鶴屋さんは顔が広いというか、様々な方面に交流のありそうな家に住んでおられる。こういった縁起物が余ってしまうのも納得だ。
「あたしんちだけじゃ食べきれなくて傷んじゃうし、みんなで持って帰ってくれると助かるよっ」
まあ、SOS団ならば五人いるし、家に持って帰れば処理はできるだろう。長門は一人だが自身の消費量の多さと朝倉という外付けパーツみたいな存在でカバーできるし、俺やハルヒにも家族がいる。朝比奈さんや古泉がどのような暮らし向きなのかはわからないが、古泉なら『機関』への手土産にするという技もある。
ともかく、このくらいの餅を消費するのはさほど難しいことではない。さすがにこの人数で食い切るには問題のある量だが。
「餅ねえ……」
ハルヒはテーブルの横で腕を組み、うんうんと唸っている。
「どうかしたか?」
「餅ってご飯に比べて食べ方のバリエーションが少ないのよね」
「そうだな」
ざっと考えてみるが、片手の指で足りてしまうほどの種類しか思い浮かばない。例えば――
「ストップ」
ハルヒが俺の口を手で押さえる。
「なんだよ」
と言いたかったのだが、口を塞がれたままでは言葉に出せず、ただもごもごとハルヒの手を噛みそうになるだけだった。
「ちょっと待って」
そう言うとハルヒは俺の口から手を外し、棚からコピー用紙を一枚取り出す。それを何度か折ってから手で切り離し、それを部室にいた六人に一枚ずつ手渡していく。
「他の人に見られないように、その紙に餅の料理方法を書いてみて。制限時間は一分」
よーいスタート、とハルヒが宣言する。そして自分の席に戻り、ごそごそと鞄を探ってシャープペンを取りだし、何やら書き付けていく。
気が付けば、他の者も鞄からペンを取りだしている。
「書けない人がいたら死刑よ。キョンを」
なんで俺だよ。
とにかくまだ二十秒程度しか経過していない。死刑は嫌だ。焦りながら鞄に手を入れるが、なかなかペンが見つからない。
「使いますか?」
朝比奈さんが微笑みながらペンを差し出してくれている。ありがたい。それに手を伸ばそうとした時、横からひょいっと誰かの手が出る。
「キョンくんごめんよっ、あたし鞄を持ってきてなかったからさっ」
受け取った鶴屋さんがサラサラとペンを動かしている。確かに餅だけを抱えてやってきた鶴屋さんはペンを持っていない。どちらかといえば、俺より鶴屋さんが受け取るべきだろう。それは納得できる。
しかし残り時間がない状態で俺はまだ鞄からペンケースやペンを取り出せずにいる。
「はい」
続いて書き終わった長門が俺にペンを向けていた。俺はそれを受け取り――何を書くか考えていなかった。