今日の長門有希SS
前回の続きです。
「なるほど、そういった事情だったんですか」
授業の合間の休憩時間、廊下から何かいいたげに教室の中をうかがっていた古泉を発見した俺は、今朝の顛末を説明してやった。ちなみに古泉が来たのは「今日の放課後は部室じゃなくて玄関に集合するように」とのメールをハルヒから受信し、俺なら事情を知っているだろうと判断してのことだ。古泉の判断は間違っちゃいないが、そもそもハルヒがメールに事情を書いてくれればよかったのにな。
「文章では説明しづらいからではないでしょうか」
確かに、その説明のためには朝倉との口論のところから始めなければいけない。しかも長門が何をするつもりなのかはハルヒも知らないので、その辺はメールに書けるはずもない。
長門は「議論の答えを出す」を出すと言っていた。果たして、どうやってあの二人を納得させるつもりなんだろうな。
「古泉、お前はどう思う?」
「おでんと焼き肉のどちらについてでしょうか?」
「何の話だ」
「いえ、僕に食の嗜好について聞きたかったのかと思いまして」
「長門がどうするつもりかって話だ」
「ああ、そちらでしたか。残念ながら、僕には涼宮さんたちを納得させるような方法は思い浮かびません」
「だよな」
「ちなみに、個人的にはおでんと焼き肉はご飯よりトーストと相性がいいと思います」
「それだけはないな」
「キョン、玄関行くわよ」
いつの間にやら放課後になっていた。今日は朝からずっと長門がどんなことをやりだすのか考えていたせいで、授業の内容もほとんど覚えていない。何やら一日をショートカットしてしまったような気分だ。
俺はハルヒに連れられ玄関に行き、そこに既に集まっていたSOS団のメンバーと合流。
「ん、朝倉はいないのか?」
俺たちが教室を出た時点で既に姿を消していたはずだ。てっきりここにいるかと思ったのだが。
「朝倉涼子は先にマンションに戻っている。彼女には今回のセッティングを任せている」
「セッティング?」
「行けばわかる」
まあ、長門がそう言うのなら間違いないだろう。
「で、俺たちもすぐ向かえばいいのか?」
「あなたたちは先に部屋に入っていて。わたしは途中でやらねばならないことがある」
「ふうん、何を企んでいるかわからないけど面白そうじゃない」
にやりとハルヒが笑う。何よりも退屈が嫌いで常に時間つぶしの方法を模索しているハルヒにとって、こういった特別な出来事が転がり込んでくるのは望むところだ。しかも今回は、ハルヒと朝倉の意見を長門が矯正しようという主旨だ。ハルヒはちょっとした勝負事のように考えているのだろう。
「じゃあ有希、鍵を貸して」
「鍵なら彼が持っている」
長門は何の気成しに手を持ち上げ、俺を指差す。
「キョン、どういうこと?」
「休み時間の間に預かったんだよ。なあ」
「……?」
そこは素直に首を縦に振ってくれよ。