今日の長門有希SS

 12/1812/19の続きです。


「それでは、ハルにゃんの団長卒業式を始めるにょろっ!」
 壇上でマイクを持った鶴屋さんが宣言する。その傍らには豪華な椅子があり、ハルヒが偉そうにふんぞりかえっている。
「まずはSOS団の思い出をふりかえってみようかっ」
 広間の電源が落とされる。機械音を立ててスクリーンが降りてきて、プロジェクターで画像が投影される。
 スクリーンに大写しになったのはチアガール姿の朝比奈さんだ。
「これは野球大会の時だねっ」
 その言葉で思い出す。
 SOS団が結成されてまだ間もない頃だ。ハルヒが野球大会に出場するなどと言い出して、無理やりかき集めたメンバーの中に鶴屋さんがいた。思えばあれが、鶴屋さんが初めて俺たちと会った出来事だ。もっとも朝比奈さんとはそれ以前から交流があったのだが。
 それからSOS団で行った様々な出来事の写真が映し出される。鶴屋さんが同行した時のものが多いが、俺たちだけで行ったイベントのもある。
 まあ、鶴屋さんがそういった写真を所持していることは驚くほどではない。
「これで終わりだよっ」
 明かりが点けられる。
 しかし、俺たちも色々なことをしてきたもんだ。SOS団が結成されてからどれほど経過したのか俺ですら記憶がはっきりしなくなっているが、本当に色々あったもんだ。
「お次は来賓からの言葉っ」
 鶴屋さんが手を叩き始める。俺たちも釣られてぱちぱちとまばらな拍手をしていると、後ろから人が入ってきた。
「お招き頂きまして感謝します」
 緑色の髪をした先輩、喜緑さんだった。
「やあやあ、今日は突然ありがとうねっ。一つ、いい感じのスピーチを頼むよっ」
「ええ」
 微笑みを浮かべ、喜緑さんはマイクを受け取った。
「ただいま、ご紹介にあずかりました喜緑江美里です。こんばんは」
 ぺこりと一礼。
「SOS団さんとの出会いは忘れもしません、ある夏の日のことです。失踪した元彼を探して頂くため、SOS団さんに依頼をさせて頂きました」
 そう言えばそんなこともあった。それからの喜緑さんの交流はSOS団を抜きにして行われていることが多く、そのどれもが筆舌に尽くしがたいものである。
「SOS団さんの働きにより、元彼も無事に帰ってきました。現在は恋愛関係を解消した相手ではありますが、今でも感謝しています」
 再び一礼。
「人との出会い、そして別れ。今回の卒業式のテーマでもありますね。そのことについて、元彼とのエピソードを交えてお話しさせていただきたいと思います。あの方に近づいた大きな理由は、彼がコンピュータ研究会を統括する立場にあったことによります。コンピュータ研究会を掌握するには、そのトップを籠絡すればいい。政治の世界でもよくハニートラップという言葉が用いられていますが、それに近いものとご理解頂けるとわかりやすいかと存じます」
 風向きが変わった。
「なぜ我が校のコンピュータ研究会を手にする必要があったか。その理由はみなさんの身の安全のため明らかにはできません。世間ではコンピュータ研究会とかつて存在した国際連盟との間に何らかの繋がりがあったと囁かれているそうですが……ここではあえて肯定も否定もしないことにさせて頂きます。疑問を持たれた方は、ご自身でお調べになっていただけると幸いです」
 気が付けば、隣の朝比奈さんが小刻みに体を震わせていた。
「朝比奈さん、どうかしましたか?」
「まさか、あの禁則事項にコンピュータ研究会が関わっていたなんて……」
 それ以上、俺は聞かないことにした。
「元彼との肉――恋愛関係は解消されましたが、今もこの手にはコンピュータ研究会の全てが握られています。人との繋がりはなくなったとしても、組織と組織との繋がりはなくなりません。ですから、このたび涼宮ハルヒさんがSOS団の団長という立場を退くことになりましても、ある意味で動き出した歯車は止められないと言っていいでしょう。では、これにてスピーチを終了します。ご静聴ありがとうございました」
 ぺこりと頭を下げる。ハルヒを含め俺たちは微動だにできず、鶴屋さんの拍手だけが響いていた。
「よくやった、素晴らしいスピーチだったにょろっ!」
 結局、何の話だったんだあれは。
「世の中には知らない方がいいこともある」
 長門がぼそりと呟いた。