今日の長門有希SS

 いつも騒動に巻き込まれる、もしくは自発的に騒動を引き起こすSOS団だが、原因の大半はハルヒにある。願ったことがなんでもかなってしまうという能力がそうさせている面もあるが、何にでも首を突っ込むハルヒはそんなこととは無関係にトラブルを巻き起こす。当の本人がそれを解決することはなく、全ての尻ぬぐいは俺たちがやることになる。
 何も起きていなければ安心できるかというとそうでもない。まだトラブルが起きていないというだけに過ぎず、これからどんなことが起きるかわかったものではないからだ。
 まあ、ハルヒが何もしなければただ毎日ダラダラと時間を潰すだけになってしまうので、その点では感謝したい面もあるが、度が過ぎているのが問題だ。
 ちなみに現在は、問題らしい問題が起きていない。それを引き起こす可能性が最も高いハルヒはまだ部室に来ておらず、ここにいるのは四人だけだ。
 俺と古泉は将棋、長門は読書、朝比奈さんは椅子に座って編み物。平和な光景であり、できればこれが長く続いて欲しいものだ。
「お待たせ!」
 そんな折、勢いよくドアが開いてハルヒが入ってきた。思わず俺は溜息をついてしまう。
「何よキョン
「いいや」
 今さら敢えてこいつに言うようなことはない。俺は黙って正面に向き直る。
キョン、話は終わってないわよ」
 だがハルヒがそれを許さなかった。油断していたとはいえ、視線一つでハルヒの機嫌を損ねるとはうかつだった。もちろん、ハルヒの沸点が低いのが最大の問題ではあるが。
「もしかして、不満でもあるの?」
 そりゃあるさ。何か一つ述べろ、と言われれば困ってしまうが、細かいことはいくらでもな。
 しかし、俺はそれをそのまま口にするほど考えなしではない。ちらりと視線を向けて「別に」と呟く。
「気に入らないわね」
 ハルヒ仏頂面だ。一度こうなってしまうと、長引くかもしれないな。
 何か助け船でも出せ、と横目で見た古泉は涼しい顔をしていた。
 ま、こいつが焦っていないところをみると、まだ大丈夫だと考えていいだろう。古泉はハルヒの精神状況を読むことができるはずだが、その古泉が問題ないと判断しているということだ。
 どこに行っていたか知らないが、ハルヒはここにくる前から機嫌が悪かったのだろう。それで、たまたまドアを開けた時に顔を向けた俺にいちゃもんを付けてガス抜きをしているわけだ。
 ストレスのはけ口くらい他で見つけて欲しいもんだ。
「何が不満なのよ」
「ないって言ってるだろ」
「嘘つくんじゃないわよ。あたしに文句がある、って顔に書いてるわ」
 じゃあなんだ、俺も古泉のようにヘラヘラと気味の悪い笑みでも浮かべろと言うのかこいつは。バカバカしい。
「わかったわ、あんたがそんなに不満なら」
 すう、と息を吸い込む。
「あたしは団長を卒業するわ!」
 ……なんだって?
「もう止めても無駄よ。決めたの、団長を卒業する!」
 一体どうしたことだ。団長をやめる? お前が? じゃあこのSOS団はどうするつもりなんだ。
 改めて古泉をよくみると、うっすらと顔に冷や汗が浮かんでいた。朝比奈さんもあわあわと俺を見ていて、長門は読書を続けている。何か大きな問題が起きた時でも、長門は変わらない。その揺るぎなさはテレビ東京に通じるものがある。
「話は全部聞かせてもらったにょろ!」
 そこでドアの向こうから声がした。ハルヒの後ろに現れた鶴屋さんは、にこやかな笑みで俺たちを見回す。
「こんな狭いところじゃもったいないねっ。ハルにゃんの卒業式をやるならあたしも協力するさっ」
「ありがとう……いつも助かるわ、鶴屋さん
「困った時はお互い様さっ。今から準備に取りかかるから、夕方くらいにきてくれるとちょうどいいかもねっ」
 にょろんと手を上げて鶴屋さんが姿を消す。後に残った俺たちは呆然とそれを見送ることしかできなかった。