今日の長門有希SS

 俺たちは少し離れたスーパーに買い物に来ていた。
 あらゆる店には対象とする客層があり、俺たちのような高校生を見かけることは少ない。長門との交際は一部の者にしか知らせていないので、こういう状況はありがたくもある。
 平日の夕方ならば一人で買い物をする主婦が中心となり、休日になると父親や子供の姿を見かけるようになる。この店の場合はメインターゲットは主婦や家族連れだ。
 それに伴い、駐車場や駐輪場の様子も変わる。言うまでもなく、休日になると車の数が増えるわけだ。
 今日は平日の夕方、俺たちが乗ってきた自転車は駐輪場の中に埋まっている。荷物を長門に預け、半ば発掘するように自転車を取り出してから帰ることにする。
 帰ると言っても、行き先は自宅ではなく長門の部屋だ。どちらかというと、俺は長門の部屋にいる時間の方が多い。
「……」
 長門が持っていた袋の一つをカゴに入れる。長門の手にはまだ大きな袋があるが、こちらは手持ちで帰ることになる。卵が入っているから、割れないようにとの配慮だ。
 自転車を押して駐輪場から離れることにする。道自体はそれほど狭くないが、ぎっしりと並べられた自転車があるので動ける範囲は狭い。ここで長門と二人乗りをすればかなり迷惑な存在になってしまうだろう。
 反対側から来た女の子とすれ違う。ピンクに塗られた自転車が子供らしい。妹と同じような背格好だから、恐らく小学生だろう。
「あっ!」
 自転車置き場を抜け、そろそろ長門を乗せようとしたところで背後からそんな声が聞こえた。振り返ると、長門も同じように後方に顔を向けている。
 声は先ほどすれ違った女の子が上げたものだ。密集している隙間に自転車をねじ込もうとしていたようだが、その片方がばたばたと音を立てて倒れ始める。いわゆるドミノ倒しといったやつだ。
「……」
 女の子は青ざめた顔で倒れた自転車を元に戻そうとしている。だが、小学生の力ではなかなか持ち上がらないようだ。自転車同士が引っかかっているのかも知れない。
長門
 具体的なことを口にする前に、長門は俺の横をすり抜けるように動き、自転車のハンドルを握った。
「ちょっと待っててくれるか」
「……」
 無言で首を縦に振る長門を背に、俺は自転車置き場に戻った。


「ありがとうございました」
 ぺこぺこと頭を下げる女の子に手を振って、待っていた長門のところへ。
「お疲れさま」
 俺が手伝い初めてすぐ、中年の婦人が二人ほど加わったので、大したことはやっていないし時間もほとんどかかっていない。
「あなたは優しい」
「そんなんじゃない」
 あれが妹だったら、と思ってしまっただけだ。俺や手伝いに加わったヒョウ柄のシャツを着ていた恰幅のいい主婦ならともかく、小学生一人であれを全部元に戻すのは大変だっただろう。
「優しくない?」
「優しくないわけじゃない」
 普通のことを普通にしたまでだ。
「そう」
 長門は何か考えるように下を向き、再び顔を上げる。
「じゃあ、ロリコン?」
 違う。