今日の長門有希SS
「さて、と」
食卓テーブルの上にずらりと食材が並ぶ。よく使う物もあれば、普段は滅多に買わないような物もある。
まず、俺は大きめのコップを二つ用意した。本来ならコップではなくもう少し洒落た容器を使いたいところだが、わざわざそんな物を買っても使う機会は限られるので買ってはいない。
皮を剥いたバナナをまな板に置きナイフでカットする。ナイフと言っても朝倉が持っているような物ではなく、普通の果物ナイフである。大きめのスライスを何枚か作り、残った分は細かく刻む。
その細かく刻んだ分をコップの底に入れ、上からチョコレートシロップをかける。このあたりの分量は適当だ。
次はコーンフレークだ。食ったことがないわけではないが、最近じゃあまり食った記憶はない。アメリカ映画なんかを観ていると定番の朝食らしいが、ここは日本だしな。
コーンフレークはこれで終わりだ。袋の口をくるくるとまとめると全体を輪ゴムで留め、箱に入れて戸棚に片づけておく。
冷凍庫を開け、奥の方からバニラのカップアイスを取り出す。そういえば以前、でかいアイスを買ってなくなるまで毎日のように食っていたことがあったが、アイスを食べるのも久々な気がする。
スプーンで取り出し、コーンフレークの敷き詰められたコップの上に落として……いきたいのだが、なかなかスプーンから離れてくれない。コップの側面はきれいなままにしておきたいからなんとか自然に離れてくれると助かるのだが、やはり無理なので振ってみる。
……コーンフレークがアイスにくっついて来てしまったので、諦めて指を使って無理矢理引きはがす。もう一本スプーンを使えば簡単だったんじゃないかと気づいたのは、指の跡がついてしまったアイスがコップの上に入った後だ。
続いて、箱からホイップクリームを出す。マヨネーズなどのようにチューブ状になっている商品だが、こんな物が売られているのを俺は今回初めて知った。もちろん買ったのも初めてだ。
口金を外して中蓋を剥がす。こんなところもマヨネーズなんかと似ているな。
軽く揉んでから握りつぶすと、口金の構造のおかげでいかにもそれっぽい形のクリームがコップの中に絞り出されていく。アイスの周囲を囲むようにしたかったが、適当に塗りたくったような感じになった。
その上からまたチョコレートシロップをかけ、最後は飾り付けだ。定番としてはポッキーなんかを立てたいのだが、うっかり買い忘れてしまったことに今気づいた。買いに行きたいのもやまやまだが、作りかけの状態を放置していくわけにはいかないので断念する。
だが、飾り付け用のチェリーは買ってある。缶詰から一番上にのせたら完成だ。
それを取り出すため冷蔵庫に向き直った時、とんとんと足音が聞こえる。
まずい、こっちに来るのか!?
と思いきや、足音はここまで近づいてこなかった。トイレにでも向かったのだろうか、まあ何にせよ気づかれなかったのは何よりだ。
手早くチェリーをのせ、最初にスライスしておいたバナナを外側に配置し、コップを二つ持ちリビングへ移動する。
思った通り、長門はいない。
俺はコタツ机にコップを二つ並べる。コップというか、これは――
「パフェ」
部屋に戻ってきた長門がぼそりと呟く。
そう、俺が作っていたのはパフェだった。バナナをメインに使ったバナナパフェだ。チョコレートパフェと言ってもいいかも知れない。
「どうして」
「食べたかったんだろ?」
「……」
首を縦に振る。
「ほら、美味いかどうかわからないが食ってみてくれよ」
言うと長門は素早く座り、スプーンを使ってパフェを食い始める。
満足そうにパフェを食う長門を見ながら、俺も同じように食うことにする。もちろん店で出てくるような物には負けるが、まあ悪くはないんじゃないか。家庭で出てくるレベルとしては、な。
そもそも俺がこれを作ろうと思ったきっかけは、もはや恒例となった不思議探索の時にある。飲食代が俺の財布から出ると決まるのはいつものことだが、昨日は店に入ってメニューを選んでいる時にそれが決まった。
その時、長門が開いていたページにはパフェが並んでいた。デザートを食べたかったはずだが、長門が注文したのはオレンジジュースのみ。俺に気を遣ってくれたわけだ。
そんな風にして、俺がパフェを作るに至ったわけだ。長門が食いたかったのが何のパフェかは知らないが、バナナパフェだって嫌いじゃないだろ?
「ちょうどこれが食べたかった」
それが長門のリップサービスなのか本音なのかはわからないが、長門の食いっぷりを見る限り、満足してくれているのは間違いない。
「またお願い」
俺が半分も食べ終わってないうちに、長門はスプーンを置いた。
「ああ、任せとけ」
まだ物足りないような顔をしているな。
「ほら、食べていいぞ」
チョコレートのかかったバナナをスプーンにのせて差し出すと、長門はそれにぱくりと食いついてきた。