今日の長門有希SS

 前回の続きです。


 ハルヒがオークションで何かを売ろうとしているって?
「一体、あいつは何を売ろうってんだ」
「マスク」
「マスクって……何か特別なマスクなのか? わざわざオークションで取り引きするような」
「違う。ドラッグストアなどで売られているマスク」
「なんだってそんなもんを」
 マスクなんてそこらのスーパーでも売られているものだ。それなのに、わざわざオークションで買う奴なんているのか?
「いない。だから売れるはずがない」
 そうだよな。あいつは一体何がしたいんだ。
「替わって」
「ああ」
 俺が操作して何かわかるわけでもないし、ここは任せた方がいいだろう。
 長門はマウスを操作し、ブラウザを何度か切り替えていく。
「いくつかの取引は成功している」
 なんでだよ。
「少し前に、マスクが売り切れていた時期がありましたね。その時期でしょうか」
「そう」
 ああ、そんなこともあったな。インフルエンザが流行ってた時にはどこにも売ってなかった。
「正確にはまだ沈静化していない」
 そうなのかも知れないが、もうすっかり終わった感じだよな。あの騒動は一体なんだったんだ。
「特定の品物の需要が急激に増えた時、このようなことが発生するのは歴史が証明しています。大正時代に米騒動が発生しましたし、近代日本でもトイレットペーパーが不足したことがあります。実際には在庫は十分だったようですが、デマに流されてしまうのはよくある話です」
 で、ハルヒもそれに乗っかったわけか。
「しかし、あいつはマスクをどこで買ったんだ? どこも売り切れだったはずだが、売ろうとするからにはそれなりの数を持っているということだろ?」
「……調べる」
 言うと長門は、マウスをカチカチとクリックする。ウィンドウの切り替えが早すぎて俺には何をやっているのかわからない。
「出所が判明した。以前の取引履歴に購入した物がある」
「もしや……そこで仕入れていたってのか?」
「そう。定価の倍程度の金額でマスクを仕入れた模様」
 それが売れなくて困ってるわけか。何やってんだあいつは。
「まるでバブル時代の土地のようですね」
「感覚的にはそれに近い。今回はそれがごく短いサイクルで発生しただけ」
 まあ、マスク足りなくなればなんていくらでも作れるものだしな。限りのある土地なんかとは話が違う。
「まあ、多少痛い目に遭ってもいいんじゃないのか? どれほど買ったか知らないが、うまい話には裏があるってこった。まあ、マスクも完全に無駄ってわけじゃないし、いつか使い切れるだろ」
「個人で使い切れるかは難しい」
「……一体、いくら分買ったんだ?」
「五万円程度」
 バカかあいつは。