今日の長門有希SS

 休日の過ごし方は様々だが、定番なのはやはり買い物だろう。平日は放課後にスーパーで食料品を買うだけで精一杯だが、休日ともなると使える時間が違う。服を見てみたり、小物を見てみたり、本屋をぶらぶらとしてみたり。
 と言うわけで、休みになると長門を連れてバカの一つ覚えのように商業施設にやってくるわけだが、決してデートのアイディアを思いつかないわけではない。色々なプランを考え、そのいくつかは実践しているわけだが、それでもやはり買い物を繰り返してしまうのはあまり金をかけずにそれなりに楽しめるからだろう。
 もちろん服などを買うには金が必要だが、そもそもそれは必要だから買うものである。平日は制服があるので問題ないが、同じ服ばかりを着ているわけにはいかないので季節ごとにそれなりに服を仕入れなければいけない。
 だがまあ、なぜかSOS団で行動する際の食費は俺が出すことが多いので金に余裕があるわけではなく、大抵は見るだけで終わってしまうことになる。
 それでもふらふらと服を見て歩くのは意外と楽しいもんだ。俺のだけでなく、長門のも含めてな。
 バイトでもしていればもっと頻繁に映画を観たりできるのだろうが、生憎と俺にはそんな時間はない。バイトをすることもあるがそういうのはハルヒ主導でSOS団の活動として行われるものであり、手元に金が残るはずもない。
 というわけで、買い物をして回るのは金に余裕のない学生には最適な過ごし方だろう?
 もちろんいつも金をかけないってわけではない。たまにぱーっと金を使ってデートをすることだってある、余裕さえあればな。


 それはさておき、今日の話だ。
「少し休める場所でも探すか」
 繁華街で買い物の途中、足が疲れていた俺はそう提案した。何も俺が休みたいから言っているのではない。歩きっぱなしで疲れているのは長門も同じはずだと思ったからだ。
「……」
 無言で首を縦に振る長門。まあ、ここで反対するとは思っていなかったが。
 その辺のファミレスでも……と言いたいところだが最近あまり金に余裕はない。セルフ式のカフェや、ファストフードあたりでも問題ないだろう。
「あそこ」
 手頃な店を求めて歩いていると、長門がすっと手を上げて一方を指差す。そこにあるのはベンチで、何人か座っていたり寝転がってはいるが、空いている場所もあるので休めるのは間違いない。
 俺としてはそこでも別にいいんだが、長門もそれでいいのか?
「違う」
 じゃあどういうことだ?
「知った顔がある」
 近づいてみると、長門の言うことは確かに正しかった。最初はどこかのOLが休憩でもしているのかと思っていたのだが、スーツ姿のその女性には見覚えがある。
「森さん……だよな」
「そう、森園生
 なぜかわからないが、森さんはベンチで眠っていた。ちょっと座ったままウトウト、というのとはわけが違う。ベンチに寝ころんでグーグーと眠っている。
「起こした方がいい……のか?」
「判断が難しい」
 もし寝たいのなら邪魔しない方がいいのかも知れないが、女性としてはあまりにも無防備ではないだろうか。
「あの、森さん」
 ゆすって起こそうと伸ばした手がぱしっと掴まれる。
「……」
 俺の手首を握りしめたまま、森さんはじっと俺の顔を見つめてくる。寝起きで意識がはっきりとしていないのだろう、どことなく睨んでいるようにも見えるが、本人にそのつもりはないはずだ。ないと思いたい。
「あ……」
「あの、森さん?」
「えっと、いえ……あー……」
 俺の手をぱっと離し、俺と長門を交互に見比べる。
「どうも、通りすがりのベンチで寝る人です」
 どんな身分だよ。しかも通りすがったのこっちだし。
「今日は何のためにこんなことをしていたんですか?」
「いえ、今回はプライベートで……ちょっと座って休憩していたんですが、つい寝てしまいました」
 ベンチの上には文庫本が転がっていて、恐らくそれを読んでいる途中で寝てしまったであろうことがわかる。ちなみにそれを下敷きにして寝ていたらしく、森さんの頬にはくっきりと本の跡がついている。
「人目もありますので、ちょっとどこかのお店に入りませんか? 私が払いますので」


 俺たちは半ば引きずられるように喫茶店に連行され、古泉には言わないようにと口止めされるのであった。