今日の長門有希SS

 最近、長門が飯をよく食べているように感じられる。
 と言っても、長門は元々食べる方である。勢いがあるわけではないが、黙々と食べ続け、気が付けば誰よりも多く食べているようなタイプだ。
 もちろんよく食べることには不満はない。俺としても自分が作った料理を美味そうに食ってくれるのは嬉しいのだが、ここのところ無理をしている節があるのでさすがに気にはなる。
「なあ、残してもいいんだぞ」
「問題ない」
 と言って黙々と食べるわけだが、そんな長門を見ているとまるで給食を食いきれなくて昼休みに取り残された小学生を見ているような気分になる。
 別にそのこと自体に害はない。長門が食事を続けていたとしても会話は普通にしているし、何か致命的に困るわけではないのだが、問題があるとすればやはり夕食後の時間が削られてしまうことだ。
 二人で過ごす夜。まだ若いカップルである俺たちにとって、それはやはり貴重な時間である。もちろん食事が終わったからといってすぐ肉体的な接触になるというわけではないのだが、なんとなくそういったムードが作られていくのはやはり夕飯を終え食器を洗ってからである。
 食器が出しっぱなしになっていると、たまにそちらのことが気になってしまうのであまりよろしくはない。特に包丁などは使った後に放置すると錆びてしまうことがあるので、さっさと洗えるなら洗うべきだろう。
 そして最近、長門は肉体的な接触に気乗りしていないように感じられる。もちろんそういう流れになるための時間が減っているのはあるが、そうなった時にもあまり積極的ではない。
 これまで俺は長門と様々な手法を試してきたのだが、どちらかと言えば長門の方が積極的だったはずだ。しかし、最近では長門の方から新しいことを試してくることはなく、できることならば回数を抑えたいとしているようだ。
 よく食べるようになったことと、行為に消極的になったこと。これら二つには果たして関連性があるのだろうか。
 それが問題なのかというと、やはりよろしくないと言わざるを得ない。俺としてはもっとのんびりできる時間を増やしたいし、人知を越えた発想による責めを受けたい。
 こういう時、理由を推測することもできるが、大抵においてそれは間違っていることが多い。勘違いは更なる厄介事を生み出すこともある。
 ならば手段は一つ。
長門、最近どうしたんだ?」
「……」
 長門はじっと俺を見てくる。この反応から察するに、俺の質問の意図に心当たりが全くないわけではなさそうだ。
 つまり、長門自身、最近の妙な振る舞いには自覚があったらしい。
「よく食ってるし、それに……夜の方もちょっと大人しいよな」
「……」
 長門はさっと顔を伏せる。
 この「大人しい」という表現は大きく間違っていないはずだ。気分が乗った時の長門は、恐らく俺以外の誰も想像できないだろう。恐らく、誰かが見たら色情霊とかその類の悪霊が乗り移ったのではないかと思ってしまうほどに。
「しぼう」
「志望?」
「脂肪をつけようと思った」
 確かによく食って動かなければ太ることはできるだろう。二つのおかしな行動の原因はそれか。
 長門は上から下まですっきりとした体型をしているが、そのことで俺が長門に文句を言ったことはない。そもそも長門の肉体には不満はないのだから、言うはずもないのだが。
「なんでまた」
「胸を大きくしてみたい」
 長門はどちらかというと胸が大きな方ではない。全くないというわけではないが、SOS団には朝比奈さんという非常に豊かな体型の持ち主がいるので、そういう欲求も出てきてしまうのだろう。
「胸が大きければできることも増える」
 それは俺としても歓迎だ。だが、気になることはある。
「太るのと胸が大きくなるのは別だろう?」
 体に脂肪を付ければ、必然的に胸にも脂肪は付くだろう。だが、胸だけに脂肪がいくかというと、そういうわけでもない。
 もしコントロールできるのなら、男だって皆それを活用しているはずだ。
 と言うか、胸を大きくしたいならいくらでも方法はありそうだが。
「情報操作によって胸だけを大きくするのは世界的に悪影響を及ぼす。でも、体の脂肪を一時的に寄せて上げる分にはそれほど問題はない」
 つまり、コントロールできるというわけか。合点がいった。
「だが、別に長門が無理に太ることはないだろう」
「……?」
 不思議そうに首を傾げる。
「その引っ張ってくる脂肪ってのは世界のどこかにあれば自分のじゃなくても大丈夫なんだろ? 朝倉に借りればいいんじゃないのか?」
「なるほど」
 ぽんと手を叩く。


 後日、俺たち二人で朝倉に頼みに行くのだが、もちろん断られた。