今日の長門有希SS

 洋式便器で用を足す際、男の場合は便座に座った状態か便器の前に立った状態で行う。便器の前に立つのは小の場合に限られるが、かといって小をする時には便座に座ってはいけないわけではない。
 小と大を同時に行う(便宜的に以降はこのことを「中」と呼称する)時には便座に座らなければいけないだろう。もちろん中の際にも、立った状態で小を済ませてから便座に座り、それから大をすることは不可能ではない。だが、みなさんも経験はあると思われるが中の時には片方だけを出そうと思っても両方出てしまうことがあるので、このような試みをすると大惨事を招く可能性がある。だから、中の際には最初から便座に座っているべきだと言えるだろう。
 座った状態で大を終えてから便座の前に立って小をする場合にはこのような心配はないが、大を終えた状態でペーパーによる処理を行わないまま立ち上がるのは抵抗がある者も多いはずだ。かといって、わざわざ処理を終えてから立ち上がり、それから小をするというのも手順としてはおかしい。やはり、中の際には手順はどうあれ最初から最後まで便座に座った状態で行うべきである。
 座った状態で小を行うのはこれだけに限らない。最初は中のつもりだったが大の方が不発に終わり、結局座ったまま小を終えた経験は誰もが持っているはずだ。
 そのような偶発的なものではなく、近年では意図して小だけを座ったまま行う男性が増えたという研究結果があるらしい。これには利点もあり、立ったままと違って周囲に飛び散ってしまう可能性を軽減することができるとのことだ。
 もちろんそう言った効果を期待するわけでなく、単に座った状態で用を足すことを好む者もいる。本を読んだり携帯を操作する場合には立ったままより座った状態の方が行いやすいだろう。もちろんトイレに本を持ち込むのは衛生的には褒められたことではないのだが、こういった経験をしたことがない者はなかなかいないのではなかろうか。
 さて、ここまで述べると用を足す際は男女問わずに便座に座るべきだと思われるかも知れないが、必ずしもそうとは言い切れない。大中小全てに対応できる優れた姿勢ではあるのだが、座った状態では小を出し切ることが難しいと言われている。まだ若いせいか俺はそのように感じたことはないが、筋力が衰えるとそうなってしまうのかも知れない。
 立って用を足すか座って用を足すか、やはり場合によって使い分けるべきなのだろう。


 ちなみに現在、俺は座って中を行っているところだった。手順としては大から小への流れであるが、一つ問題があった。
 洋式便器の構造上、大にて放出されたものは便器の中を滑って落ちていく。この際、便器内部のカーブにそれが付着してしまうこともある。そう、今そうなっているように。
 もちろんトイレにはそういった状況に対応できるよう清掃道具が常備されているものだが、自ら進んで掃除をしたい者は少ないだろう。結果的に清潔な状態になることに喜びを覚える者もいるだろうが、その行為そのものを好む者はあまりいないはずであり、もしそれを使わなくても綺麗にできる方法があるのなら俺だってそうしたい。
 そして、その手段が小であった。男性は女性に比べて身体の構造的に小の方向が定まりやすい。朝起きたばかりなど自由が利かない時も存在するが、今はどの角度でも狙える状態だった。
 だから、俺は小を使ってその汚れを除去する手段を選択した。もちろんこれで除去できない可能性は残っているが、そうなったら清掃道具を使えばいいだけのこと。失敗してもデメリットはない。
 大が付着しているのは下の方だ。俺は体をやや前傾し、そこに向かって筒先を傾け、小を解き放つ。
 だが気合いを入れすぎていたのだろうか。思ったより力が入ったせいか、小が届いたのは想定していたより少し上になってしまった。慌てて軌道修正するが、第一波で勢いを付けすぎてしまったため大部分が既に放出されている。残った力でこびりついた汚れを削り落とすものの、小が終わった際にまだ少し残ってしまっていた。
 成果が中途半端に終わってしまった時ほど残念なことはない。清掃道具を使えば解決するのだが、それは妥協であり、なんとなく敗北してしまったような気がする。誰かにということではなく、己自身の決意に対してだ。
 俺は座ったまま、そこから動けずにいた。小をしたいという欲求はもうない。膀胱はすっかり空になっていることだろう。
 そう言えば、大でも小でもない何かを中と称する例もあるらしいが、そいつではこの汚れを落とすことはできない。やはり俺は、最初の決意を曲げて清掃道具に頼らなければならないのだろうか。
 いや、必ずしもそうとは言えない。確かに俺の小は出尽くしてしまったが、今そうであるだけだ。次にまた小をしたくなることは遠くない未来に訪れる。もちろんすぐにはとはいかないが時間の問題だ。それまでここで座っているのも悪くはない。
 そう決意しかけた時、ドアの向こうから足音が近づいてきた。
「まだ?」
 聞こえてきたのはもちろん長門の声だ。ここは長門のマンションであり、今日は俺と長門の二人しかいないのだから当たり前だ。
「いや、いい」
 一つの考えが浮かんだ俺は、鍵を開けて長門を招き入れた。
「……」
 長門は俺の様子を見て首を傾げる。ズボンや下着を下ろした状態で便座に座っている俺を。俺の意図がわかっていないのだろうか。
 だから俺はこう告げた。
長門、俺の大便に向かって小をして欲しいんだが」
「どんなプレイ?」