今日の長門有希SS

 人生にはいくつもの選択がある。まだ成人すらしていない高校生の俺でも大きな選択をしてきたものだ。
 例えば受験する高校の選択などは、この短い人生の中でも比較的大きな選択だったと言える。学力や地理的なものである程度は絞り込まれるとは言え、最終的に選ぶのは自分だ。家庭の事情などがあって選択肢が残っていない場合もあるだろうが、それを受け入れないと言う選択だってあるのだ。
 現在、長門と交際することを選んだのも大きい選択の一つだろう。もちろん俺はその選択に後悔などしていない。
 小さな物は数え切れないほど存在する。飯屋で何を注文するか選ぶのか、目覚ましを何時にかけるのかも選択であると言える。それらの選択はその後に与える影響はごく小さなものであるが、それでも俺が選んだ物には違いない。
 ともかく、そう言った大小様々な選択を経て、今の俺がある。


 今現在、俺の目の前にも選択肢があった。
 町中の小さな店の一角、そしてそこに並ぶ商品群。めぼしいいくつかをピックアップして、この中から更に一つを選びたい。他人にとっては大したことには思えないかも知れないが、俺にとっては大問題だった。
 ここで何を選ぶか、それによって今後の長門との生活が変わる。
 電気を消費して動くメカニカルなものもあれば、そうでないものもある。形状だって様々だ。棒状、卵状、そもそも個体ではなく液状のもの。用途も全く違う。
 俺がいるのはアダルトショップで、俺の目の前に並ぶのは様々なアダルトグッズ
 長門との性生活に不満はない。一般的な男子高校生に比べ、いや、世間の男全般に比べて様々な行為を体験していると言ってもいいだろう。それも恐らく、それぞれがかなりレベルの高い行為だということもわかっている。
 だからといって上を目指さない理由はない。今所持している物に、ここにある道具を買い足せば、できることの幅は広がる。
 棒状の物は既にいくつかあるが、商品によってその形状が違う。長さや太さはもちろん、どのように曲がりくねっているか、または電力によってどのような動きをするかも違う。だから、一本有ればいいと言う物ではない。
 卵状の物。これも様々であると言える。コードが繋がってスイッチを操作するものもあれば、それ自体で独立しているものもある。多少値が張るが、遠隔操作できる物だって存在する。用途だって一つではなく、固定できるようにクリップを備えた物はそうでないものとは違った風に使われるだろう。
 ともかく、電力を消費して作動するもののうち、一般的なものをだけですらそれほどのバリエーションを備えている。
 そして、また別の用途の道具もある。液体だってあるし、体を固定するための道具なども世の中には多数存在する。固定する場所は様々で、口を閉じなくするためだけに存在する道具もあるくらいだ。
 それら天文学的な選択肢の中から、俺はいくつかをピックアップしているわけだが、ここからどれを選ぶか難しい。どれも使ってみたい。これを購入した後のことを考えると、俺はわき上がる興奮を禁じ得ない。正直、少しだけ固くなっていると言ってもいい。いや、あくまで少しだけだぞ。
 ともかく、これ以上は絞り込むことができなかった。だが全てを買うには財布の中身が乏しい。
 そしてここに新たな選択肢が現れ、俺はそれを選んだ。
「なあ長門
 俺は、横に立つ長門の顔を見る。
「……」
 長門も無言で俺の顔を見返してくる。
 恐らくは、俺の次の言葉はわかっているのだろうが、それを待っている。
 だから俺は、選択した言葉を口にする。
「どれを買う?」
 俺が選んだ選択肢は『長門に選ばせる』だった。これは俺の興奮を高めるために必要だし、長門に対してもそうだった。
 ここでどの商品を選ぶかということは、長門が『どれを使われたいか』を宣言することに他ならない。どの商品で、俺にどうされたいかを。
 平然とその中から一つを手に取ったが、内心では高ぶっていることだろう。
「そうか、これか」
 長門が選んだ商品を受け取り、俺は口元に笑みを浮かべる。数珠のような玉が棒状に連なった商品で、似たような道具に比べると多少細く感じられるかも知れないが……これは用途が違うのだから当然だ。
「これでいいんだな?」
 最後の確認をする。
「いい」
「そうか」
 これを使って開発されたいのか、俺はそう言って、長門はそれに了承した。
「じゃあ買ってくる」
「使うのが楽しみ」
 そうか、そこまで乗り気なんだな。くるりと体を回転させ、レジに向かおうとした俺はこんな声を耳にする。
「あなたに」
 ぞくりと背中に悪寒が走ると同時に、少しだけだが、更に大きくなった。