今日の長門有希SS

 長門の部屋で長く過ごしていると来客が訪れることがある。朝倉などの知り合い以外にも新聞の勧誘などがあり、そのあたりは適当にあしらうことになる。基本的には家主である長門が対応するのだが、たまに手が離せない時などは俺が代理で出ることになる。おかげで長門だけでなく俺もこの部屋の住人だと思われているかも知れないが些細なことである。
 で、今回は長門がお茶の準備をしていたので俺が応対することになったわけだ。
「何だった?」
 リビングに戻ってきた俺に長門が問いかけてくる。応対していた時間は一分程度、大した用事じゃないとわかっているだろうが、それでも念のため聞いておく必要はあるのだろう。
「受信料だとさ」
「そう」
 言いつつ長門は俺の前に湯飲みを置く。
 こんな風に座って団らんする時にテレビを見る家庭もあるだろうが、この部屋にはテレビがない。そう言ったら受信料を取りに来た担当者も何も言わず帰ってしまった。
 テレビを見ているのに払わないのは問題だが、本当に見ないのだから払う必要はない。
「そう言えば、なんでテレビがないんだ?」
「必要ないから」
 宇宙人製のインターフェースには必要ないということかと思ったが、朝倉の部屋には普通にテレビが置いてある。たまたま長門にそう言う趣味がないというだけか。
 だが、長門も映画を観ることはあるので放送されている番組は見なかったとしてもテレビそのものは不要ではないと思うのだが。
「どうしても見たい時はあなたの家か朝倉涼子の部屋に行けばいい」
「なるほどな」
 俺と出会う前は朝倉の部屋にいる機会も多かったようだし、この部屋には必要なかったわけだ。
 だが、今はこうしてこの部屋で過ごす時間も増えた。別に置いてもいいんじゃないのか?
「テレビがあるとつい見てしまう。ない方がいい」
 そうだな。テレビを見ていると会話が減ってしまうこともありうる、そう言うことだよな。
「……」
 違うのか。
「夜、テレビショッピングを見るのはあまりいいことではない」
「何か余計なものでも買ったことがあるのか?」
「ゴマ」
 ゴマ?
「ゴマを粉末状にする機械」
 確かにテレビショッピングでやってる調理器具には惹かれるものがあるな。電気のコードが切れる包丁だとか。
 だが、すりゴマなんてそこまで頻繁に使うものじゃないし、使う機会は少ないはずだ。この部屋で長く過ごしている俺ですら見ていないということは、最後に使ってからもうかなり時間が経っているということか。
「違う。この部屋にはない」
 じゃあどこに?
朝倉涼子の部屋で見ている時につい買ってしまった。彼女の部屋にある」
「そうかい」
 あいつの部屋の押入にでも眠っているかも知れないな。
「それなりに使っているらしい。結果的にはよかった」
 勝手に押し付けてそれはどうかと思うが、役に立っているなら問題ない。そこまで場所を取るものでもないしな。
「買ったのはそれくらいだろ?」
「……」
 まだあるのかよ。
乗馬マシンもそう」
 あの邪魔くさそうに部屋の片隅に置かれているあるあれもお前の仕業だったのか。そんな使わないようなものを押し付けるなよ。
「一時期よく使っていたから問題はない」
 そう言うもんかね。
「その時の映像もある。見る?」


 それから朝倉の部屋に移動し、ホームビデオで撮影されたなぜか水着で乗馬マシンに乗る長門の映像を見ることになった。