今日の長門有希SS

 1/171/191/211/24の続きです。


 最初から三時間オーバーのタイタニックで始まったSOS団映画祭だが、続いての作品は朝比奈さんの選んだモンスターズ・インクになった。最初に選ぼうとしていたがDVD化されておらず断念した例の作品と同じCGアニメ映画である。確か、制作している会社が同じだったはずだ。
 こちらもタイタニックと同様に一昔前の映画である。しかし、数年を経ても広く名を知られているという点では共通している。
 テンポのいい素晴らしい映画だった。アニメ映画であり子供向けの作品ではあるが、幼稚すぎることはなく、女性のファンが多いと聞く。実際、タイタニックに続いて朝比奈さんはまた涙を流しており、ハルヒ鶴屋さんも余韻に浸っている。
 いい映画であるが、何より特筆すべきは上映時間だ。この映画は最初に見たタイタニックの半分ほどであるにも関わらず、その短い時間でコンパクトに話がまとまっている。タイタニックならばまだ船が沈んでいないような時間だというのに。
 いや、長い映画が一概に悪いとは言わない。短すぎれば物足りなさを感じるだろうし、ある程度のボリュームは必要だ。問題があるとすれば、複数の作品を鑑賞しようという時にそれを選ぶ古泉及び古泉にそれを勧めた『機関』に属する者のセンスである。映画の長さというのは時と場合によって善し悪しが決まるわけだが、今回に限っては長くない方がいい。
「ところで、どうだった?」
 声をかけると、長門はゆっくりと首を俺の方に向ける。
「悪くはない」
 この映画でも判定基準となる長門が涙を見せることはなかったが、タイタニックと同様に気に入っていないわけではないらしい。この映画がそれなりにいいと言うのなら、本来朝比奈さんが借りようとしていたあれを観に行くのもいいかも知れないな。
「いつ?」
 ぐっと長門の顔が迫る。予想以上の食いつきに少々面食らう。長門をここまで惹きつけるとは、朝比奈さんの選択もなかなか侮れない。
「ちょっと休憩したいわね」
 ハルヒがぼそりと呟いた。
 映画鑑賞を始めたのは日が暮れた頃だったがもうすっかり夜も更けてしまった。連続して映画を見続けるという無茶な計画を立案したのはハルヒであり、当の本人がやめると言い出せばそんな愚行を続ける必要はない。そもそも長門の感涙を誘うなんてのが無理な話だったのだ。
「そうやってなんでもできないって決めつけるのがあんたの悪いところよ。やってみないとわかんないでしょ?」
 そうは言うが、長門の泣き顔などいくら頭を回転させたところで思い浮かばない。
「それじゃあ、あんたは有希を泣かせる自信がない映画を選んだっての?」
「いや……」
 俺は俺なりに長門に合うであろう映画を選んできたつもりだ。適当に選んだり、手を抜いたつもりはない。しかしそれでも、感情をあまり面に出さない長門が映画程度で涙を流すという状況がありえないのではないかと思うわけだ。
「それじゃああたしの映画を先に流すわよ。有希を感動させる自信がないような映画を流すのは時間の無駄だし、もしあたしの映画でも通用しなかったら最後にキョンのでもいいわよ」
 まあ、好きにしてくれ。本当は三番手くらいがちょうどよかったんだが、ハルヒがそう言い出したならひっくり返すことはできない。
「で、お前は何を借りてきたんだ?」
「これよ」
 ハルヒの取り出したDVDには『火垂るの墓』と書かれていた。
 いや、そりゃ確かに感動するかも知れないが、ちょっと方向性が違いやしないだろうか。