今日の長門有希SS

 1/171/19の続きです。


 改めてレンタルショップの棚を見て気が付くことはDVDの多さだ。数年前まではビデオテープが主流だったが、いつしかDVDが置かれるようになり、今となってはDVDばかりになっている。大抵の映画はDVDになっているが、ビデオでしか出ていないようなマイナーな作品はもう見ることができないのだろうか。
「ん、キョンくんはビデオで探すのかいっ? それならあっちにVHSコーナーがあるにょろっ」
 後ろから声がかかる。
「いえ、そういうわけではないんですが……」
 振り返った先にいるのは特別参加の鶴屋さんだ。今回は場所提供も兼ねてハルヒの思いついた突発企画に参加してくれている。
 いつもながら鶴屋さんには頭が上がらないね、全く。
「ハルにゃんたちと一緒にいるのはあたしも楽しいからねっ」
 例えお世辞でもそう言ってもらえると気が楽になる。俺たちSOS団――というかハルヒは今までどれだけ鶴屋さんに頼ってきたことだろう。気にしてもいなさそうなハルヒは覚えちゃいないだろうが、そういう関係になって長いので俺だってそれは定かではない。正確にわかるとしたら長門くらいだろうか。
「ところでキョンくんはどんな映画を持っていくのかなっ?」
「そうですねえ……」
 実のところ俺はどの映画にするか決めかねていた。古泉も朝比奈さんも好きこのんで探しているとは思えないが、ハルヒの意向があるのだからそれなりの映画を持ってくるだろう。ハルヒはそういうセンスがあるようにも思えないのだが、自信があるから言い出したのかも知れないし、そもそもハルヒがもし本気で勝とうと思っていれば勝てるはずなどない。
 しかしながら、例えそうだったとしても諦めるわけにはいかない。長門にあんな言葉をかけられたのだから。
 となると簡単には決められるはずがない。自分の願いを叶えることに定評のあるハルヒの能力を超越するには並大抵のチョイスではかなわない。だからこうして、何を借りるか決めかねてぐずぐずと店内を徘徊してしまうわけだ。
キョンくん、そんなに考え込まなくてもいいと思うにょろっ。難しく考えるよりも、これだーって直感で決めた方が長門っちも喜ぶんじゃないっかなっ?」
 鶴屋さんの言うことももっともだ。難しくあれこれ考えてはいつまで経っても決まらないし、ここは一つ以前に一緒に見て長門の反応がよかった映画などを選んでみるか。
「決まりました」
「他のみんなはレジで待ってるよっ。それじゃあ行こっか!」
 と、そのようなわけでレジにいた他のメンバーに合流してDVDを借り、本を物色していた長門を連れてTURUYAを後にした。


 映画の視聴会場は例によって鶴屋さんの家である。
「お待たせにょろっ」
 映画を見るから食べる物もそれなりに、というハルヒの提案を全面的に取り入れた状態の食事がテーブルに並べられた。ホットドッグやポテトに大量のポップコーンなどいかにも映画館で売っていそうなものばかりだ。
「ポップコーンはこっちからキャラメル、チーズ、バターがそれぞれかかってるよっ」
 完備しすぎです。
「じゃあ、誰から行く?」
 ぽりぽりとポップコーンを噛みながらハルヒが俺たちを見回す。自信がないわけじゃないが一番手というのはなかなか難しい。かといって最後もなかなか荷が重いので、二番手や三番手あたりに甘んじたいところだ。
「希望する方が他にいないのでしたら」
 と口を開いたのは古泉だ。あのように話を振ったからにはハルヒ自身も最初に出すのを敬遠していると読んでのことだろう。
「それでいい?」
 俺も朝比奈さんも首を縦に振る。ここで口を挟むくらいならもっと先に言ってるだろう。
「で、古泉くんは何を借りてきたの?」
 まだ一番手だし、場を暖める程度の軽い映画だと後に続きやすい。古泉の映画の終わった時点の空気を見て、二番手か三番手に流す。その流れだ。
「バイト先の同僚にも聞いてみたのですが、感動する映画ということなら定番を借りてみました」
「定番ねえ、何かしら」
 興味津々といった表情でハルヒが古泉の手元をのぞき込む。
「こ、これは――」
 古泉がケースから出したDVDを見てハルヒの動きが止まった。ハルヒを硬直させるほどのタイトルとは、一体。
タイタニック
 いきなり長丁場じゃねぇか。