今日の長門有希SS

 12/2612/27の続きです。


「で、朝倉は一体どうしたんだろうな?」
 昼休みの部室、テーブルを挟み弁当を食う俺たちの間に鞄が置かれている。中に入っているのは小さくなった朝倉で、どうやら俺の命を狙っているらしい。今は大人しくしているが、いくらナイフで切りつけてもびくともしないから諦めたのだろう。
「わからない」
 朝にも聞いたが、起きた時にはこの状態で部屋にいたらしい。鞄の形を変えるほど暴れる朝倉を教室に持っていくわけにもいかず、授業の間はここに置いていたわけだ。
「本人に聞くしかないか」
「……」
 何かあったら頼む、と視線を送ると長門は静かに頷いた。これでいきなり飛び出して来ても安心だ。
 慎重に、鞄のジッパーを開けると――
「おなか……すいた……」
 鞄の中で小さい朝倉が転がっていた。


「ご飯を食べさせてもらっても懐柔なんてされませんよ」
 小皿に取り分けてやった弁当をがっつきながら朝倉はびしっと俺にナイフを向ける。だが今は俺をどうにかするよりも食べることの方が優先らしく、そのナイフは朝倉にとってサイズの大きいミートボールを切るために使われている。
「ところで、お前はどうしてそんなことになっているんだ?」
「わたしはキョンくんを抹殺して情報爆発を起こすためにここに来ました」
 ミートボールを切っていたナイフを再び俺の方に向ける。
「死んで!」
 飛びかかってきた朝倉はそのまま俺の顔にナイフで切りつける。小さくなっても朝倉は宇宙人で、そのナイフは確実に俺の命を奪うことだろう。
 そこに長門有希がいなかったなら。
 実際のところは、俺まで半分も来ないうちに上からすっぽりと鞄を被せられていた。ひっくり返され、ジッパーを閉められる。
「ご、ご飯がまだー」
 確かに小皿に入れた料理はあまり減っていない。飯より俺の抹殺を優先した結果だ。
「食わせてやれ」
 だが、このまま空腹で放置するのも可哀想だろう。俺がそう言うと、長門は鞄の中にぼとぼとと小皿の中身をひっくり返し、またジッパーを閉じる。
「た、タレが顔に――」
 きっちりとジッパーを閉めるともう朝倉の声は聞こえてこない。
 しかし、俺を殺したいってどういうことだ?
「確か朝倉は、そう言った目的からは解放されてるんだったな?」
「そう」
 だが、朝倉が小さくなったことすら長門には感知できていなかったのだから、知らぬ間に新たな任務を植え付けられていても不思議はない。
「とりあえず放課後まで朝倉はここに置いとくとして、学校が終わったら朝倉の部屋でも調べてみるか。何か手がかりがあるかも知れない」
 淡々と弁当を口に運ぶ作業に戻った長門は、静かに首を縦に振った。


 そして放課後のことだ。
 朝倉を元に戻すには何があったのか把握しなければならない。姿を見せない日が続けばハルヒだった怪しむだろう。なるべく早く事態を収束するためには、今日は早めに部室を抜けたいものだ。
 帰る口実はどうしようか、と思いながら朝倉を回収するため部室のドアを開けると、
キョン、ちょうどよかった」
 腕を組んで立っていたハルヒが俺を見て表情をゆるめる。
「これ何なのかしら」
 ハルヒが顎で示したのは、昼休みに見たような状態でテーブルの中央に置かれた鞄だった。