今日の長門有希SS

 前回の続きです。


 鞄の中から弾かれたように朝倉が飛び出す。
「死んで!」
 樽にナイフを刺すことで人形が飛び出す昔ながらのオモチャを連想したが、ナイフを持っているのは俺でも長門でもなく朝倉だ。小さな朝倉の手にはその体に見合ったナイフが握られている。
 ままごとの道具のようなそれではあるが、持っているのが朝倉なので油断はできない。このサイズでも殺傷能力は十分だと考えるべきだろう。
「はぐっ」
 その手が俺の間近まで迫った時、朝倉はまるで透明な壁にぶつかったように空中で停止し、ずるすると落下していく。
 こんなことができるのは一人しかいない。
「危なかった」
 そもそも俺を危険な目に遭わせたのが長門だという気がしないでもないが。
「こうなるとは思っていなかった。ただ、あなたに会わせて欲しいと言われて」
「ところで、朝倉はどうしちまったんだ?」
「わからない。目が覚めると部屋にいた」
 で、ここに連れてくるように言われたわけか。本人に事情を問いただしたいところだが、小さな朝倉は衝突のショックで目を回しており、更に長門に鞄に詰められている最中だ。
「――はっ。出せー」
 ジッパーの音で目を覚ましたようだが、長門は気にせず閉じてしまう。最後まで閉じてしまうともう中から声は漏れてこない。
「防音完備」
「そうか」
 しかし、もぞもぞとしている様子は少しばかり気色が悪いな。
「教室では怪しまれるので部室に置いておく」
ハルヒたちに見つからないようにな」
「気を付ける」
 チャイムの音を聞きながら部室棟に向かう長門を見送った。
「何してたの?」
 教室に戻ると、ハルヒが俺を見ていた。
「大か小か聞きたいのか?」
「それも悪くはないわね」
 悪い。
「それより、途中で長門に会った。朝倉の話をしたんだが、どうも調子が悪いみたいだ。うつると困るから見舞いは控えた方がいいだろう」
「ふうん」
 こいつが小さくなれば俺たちは平和な日常を送れるようになるだろうが「風邪を引くと体が小さくなることもある」なんて認識を与えるわけにもいかない。そう言った意味では困ったことになるのは間違いない。
「それよりキョン、まだ聞いてないんだけど」
「何がだ」
「大と小どっち? 団員の健康管理も団長の仕事よ」
 そんなことまで管理するなよ。