今日の長門有希SS

 中高生というのは性欲が旺盛なものである。大抵の場合はそれを持て余して悶々とするものであるが、相手がいるとその有り余るエネルギーを存分に満たすことができる。
 当然のことながら、あまりにも求める回数が多かったり、試してみるプレイが特殊であれば相手に引かれることもあり得る。だが、それが許される環境であればどこまでもエスカレートしてしまうものだ。中高生くらいの若者は性欲だけではなく好奇心も旺盛であり、何かを思いついたらついやってしまいたくなる。そしてそれに慣れてしまうと、じゃあこれはどうだろう、あれはどうだろうと何から何まで試してみたくなってしまうわけだ。
 部位、手順、器具――その好奇心はあらゆる物に適用される。そしてその好奇心は、満たされるたびにまた新たな刺激を求めるようになってしまうものだ。辛い物を好きな奴がどんどん辛い物に手を出していくように、刺激に慣れてしまった者は新鮮さを求めてエスカレートしてしまうのが当然なのだ。


 誤解されがちだが、そういった傾向があるのは何も男だけに限ったことではない。
「今日はこれを使ってみたい」
 既に生まれたままの姿でスタンバイ完了した長門がじわじわとにじり寄ってくる。
 俺と長門のどちらが性的な行為に積極的かというと、実のところそれは長門のほうだったりする。
「ちょっと待て、食べ物で遊ぶなって習わなかったか」
「習っていない」
 そうだった。長門は俺たちと違い小学校や中学校を経てはおらず、子供の頃に学ぶべきことをすっ飛ばしている。知識は豊富であり社会的な常識を身に付けてはいるがそれとこれとは話が別だ。
 ひょっとすると、長門の好奇心は幼児のそれと似ているかも知れない。誕生して三年やそこらしか経過していない長門には、本で読んではいるが見たことがない物もまだあるだろう。
 だからこそ、ある意味で一般常識のない長門は時に俺の理解の範疇を越えた発想を生み出す。今回の件もそうだが、まさか性的な利用法があるなどとは思っていなかったエコバックをあんな風に活用された時はそのあまりの悪魔的発想に恐怖を感じ新たな神として長門を崇拝してしまうところだった。
 ともかく、今回の件にも俺はかなりの衝撃を受けた。今になって思い出してみると、普段はあまり買わないそれをまるで好物を買う時のように嬉しそうに買い物カゴに放り込んでいた時点で違和感はあったのだ。
 だが、その時点でそれがこんな風に登場するなんて思えるはずがない。常識に囚われ物事をある一面でしか捉えなくなった俺にはとてもじゃないが無理な発想だ。
 今回の件とは微妙に話は変わるが例えば納豆。これは醤油などを加え混ぜてご飯と一緒に食べる食品だが、人によっては砂糖を入れてみたり、ご飯ではなくパスタに使ってみたり様々な食い方が。
 だが見方を変えるとそれは「粘りがあって粒のある物体」となる。この場合はそれが既に食品であることすらも無視しているわけだが、このあたりまでなら俺でもどうにか到達できる範囲だ。
 しかしながら、納豆に含まれる繊維が科学的に合成された繊維と成分が似ているので、それを繊維の面から活用するという発想はとても常人には生み出せるものではない。もっとも、仮に思いついたとしてもそんな風に活用するためには高度な科学技術が要求されるためすぐに「そんなバカな」と諦めてしまうわけだが、なまじ技術を持ち合わせてしまうとタチが悪い。
 ともかく、長門の発想は常人の理解の範疇外である。好奇心も性欲も、普通ならばそこまでふくれあがることはないはずだが、こうなってしまったのには理由がなくもない。
「いい?」
 表情は変わらないが、伏し目がちで俺に聞いてくる長門。手にはまだそれが握られている。
 俺は心身共に長門を愛しているわけで、その望みを可能な限り叶えようと思うのはおかしなことじゃないだろう?
「わかった、少しだけだぞ」
 少しじゃすまないことがわかっているが、つい俺はいつものようにそう言ってしまう。
 そう、長門をこんなにも成長させてしまったのは俺に原因がある。だからそれを受け入れるのは俺でなければいけない。
 それにまあ、やっぱり、気持ちいいしな。
「では」
 嬉しそうに長門が迫る。
 それを使ってどこをどうされるのか、俺の心臓は早鐘を打っていた。