今日の長門有希SS

 4/22の続きです。


「さあ、ここよ」
 長門が食い終わるのを待ち、電車を乗り継いでやってきたのは今までに何度か訪れたことのある商店街だ。
「ここで何を探そうってんだ?」
「不思議なものよ」
 と、言われても何の変哲もない商店街だけどな。少々寂れた印象はあるが、基本的にはどこにでもありそうな場所だ。
「そう? ぱっと眺めるだけでけっこう見つかるわよ」
 瞬間、空気が変わった。ハルヒは不思議な存在を見つけて一緒に遊ぶためにこのSOS団を設立したのだが、そこに所属する団員たちの目的は万が一不思議な現象が起きた時にそれをハルヒに気づかせないことである。
「一体、何の話だ」
「例えばあの店」
 ハルヒが指を差したのは何の変哲もない……ええと、何屋だあれ。
「お客さんが入りそうな気配もなくて今にも潰れそうだと思わない? でも営業していられるのはきっと裏で怪しい商売をやっているからに違いないわ」
 まあ確かにあの店がこのアーケード街で生き残っているのは不思議だと言えなくもないが、実のところああいう店は普通に客が入る以外の方法で儲けているらしいぜ。前になんかの番組で見たことがある。
「……」
 目が合うと、長門はわずかに首を縦に振る。長門も覚えていたのだろう、俺の家で見たあの番組を。確かあの時は飯を食った後に妹を交えてくつろいでいた時だったか。
「だから、そういうところは怪しい商売で荒稼ぎしてるんでしょ?」
「違う、まっとうな商売だ」
 例えばたばこ屋の場合なら、店頭ではなく管理している自動販売機の売り上げが高いとか、一般人から見えないところで利益を出しているらしい。まあなんか制度が変わって大変らしいが、それは今はどうでもいいことだ。
「でも、これだけ潰れそうで潰れない店があるなら一カ所くらいは何か企んでいるに違いないわ!」
 実際にそこを経営しているお店の方々に失礼だからそう潰れそう潰れそうと連呼するな。ああいった店だって好きであんな外観になっているわけじゃないはずだぜ。
「あんただって失礼じゃない」
「そうか?」
「そうよ」
 さて、それで今日はこれからどうするんだ?
「決まってるじゃない。怪しい店を探るのよ」
「どうやってだ?」
「怪しい店を見つけたから片っ端から聞いてみるのよ。なんで潰れないかって」
 そりゃ失礼だな。
「で、スムーズに理由を説明できたらちゃんとした店なんだけど、口ごもったり説明しても説得力がなかったら裏で怪しいことをしてお金を稼いでるに違いないってわけよ」
 そもそも、どんなに流行っている店だとしても「潰れそうだけどなんで潰れないのか理由を教えてくれ」と聞かれたら誰でも面食らうと思うけどな。それが実際に潰れそうな店ならなおさらだ。
「ごちゃごちゃ言ってるんじゃないわよ。時間もないしさっさと行くわよ」
 反論する暇などない。ずんずんと歩き始めるハルヒに手を引かれ、俺は足をもつれさせないようにするだけで精一杯だった。