今日の長門有希SS

 朝、目が覚めてもなかなか動きたくない時がある。疲れているとか布団から出るのが面倒だとか理由は様々だが、大抵の場合は無理をしてでも起きあがらねばならない。週の大半は山の上にある高校に行かねばならないし、仮に高校が休みだとしてもSOS団員である俺たちにとって休日は活動日であり、主に俺の財布から金を出して喫茶店に入ったり、駅の近辺で不思議なものという曖昧な何かを探してぶらぶらとしなければならない。
 しかしながら、完全なる休みがないわけではない。ハルヒだって週末の貴重な休みを全て無駄に過ごすほどバカではなく、まあ不思議探し以外のイベントを思いついた週は話が別だが、二日あるうちの一日は自由になる場合が多い。
 で、今日がその貴重な何もない日だ。早く起きなければならない理由はなく、このまま夜までごろごろしていても誰にも怒られることはない。まあ、実際には食事や生理現象を解消するために布団から抜け出さねばならないのだが、少なくとも今はこうしていても問題はない。
「……」
 というのは、向かい合って俺を見ている長門の様子を見てもわかる。もし空腹ならば早く食事をしようと急かしてくるはずだし、心なしか重そうなまぶたを見る限り長門もまだ眠気が残っているのだろう。
「もう一眠りするか?」
「……いい」
 少しだけ迷ったように見えるが、誘惑を振り払うようにそう言い切る。
「そろそろ昼になる」
「そうか」
 このまま眠気に身を任せてしまえば夕方になってしまうのは火を見るより明らかだ。長門と二人きりで過ごすことに問題は何もないのだが、貴重な休みをお互い意識のない状態で終えてしまっては少しばかりもったいない。
「なんか食うか」
「まだそれほど食欲はない」
 まあ、俺も飯より寝転がっていたい気分だしな。動くのは腹が減ってからでいいか。
「米もパンも切れている」
 長門がそう言うのなら実際に残っていないのだろう。この部屋のことは俺もそれなりに詳しいが、やはり本来の持ち主には敵うはずがない。
「昼は買い物ついでに外で食うか?」
「それでいい」
 こくりと首を縦に振る。
 普段は近所のスーパーで済ませているのだが、休日となると少し離れた店まで行くことができる。
「なんか買いたい物はないか?」
「本と服を見たい」
 季節の変わり目には服が欲しくなるものだ。ある程度のお洒落はするようになったが長門は私服を多く持っているとは言えず、この期に色々と揃えるべきか。
 本はまあ、いつものことだ。
「ちょっと遠くまで行くか」
「そうしたい」
 こういう時、便利なのは店が一カ所に揃っているショッピングセンターである。長門を後ろに乗せて自転車で行けばいい。
「他にも欲しい物があったら言ってくれ。せっかくの休みだしな」
「あなたは?」
「俺か? そうだな――」


 時計を見ていないのでわからないが、そのまま三十分ほど今日の予定について話した頃だろうか。なんとなく空腹感を覚えた俺たちはどちらからともなく布団を抜け出して服を身につけてカーテンを空け、
「あ……」
 窓の向こうを見て出鼻をくじかれる。
「自転車で行くつもりだったんだけどな」
 空からは音もなく霧雨が降り注いでいた。