今日の長門有希SS

 料理を並べたところでもう一品くらい欲しいなと思うのは珍しいことじゃない。そういう時は冷蔵庫に残った食材ですぐに作れそうなものはないかと考えるわけだが、今使った食材ばかりなのでどうしても似たような料理になってしまいそうで難しい。まあ同じ材料で全く毛色の違う料理を作れる者もいるが、さすがに俺はそこまで料理が得意ではない。
「これがあった」
 長門が戸棚から引っ張り出してきたのは真空パックされた高菜だ。確か前に朝倉がどこかの物産展で買ったとか言って持って来たものだが、すっかり存在を忘れていた。まあ土産物にはよくあることだが。
 しかし、それは冷やしてなくて大丈夫なのか?
「常温で保存と書いてある」
 なら問題ないか。棚に戻すとそのまま賞味期限が切れるまで再び忘れてしまいそうだし、せっかくだから開けることにした。
 一般的に土産物にうまいものなしと言われているが実際には美味いものも存在する。今回に限っては中の上と言ったところか。食べる前に冷やしておけばもっとよかったかも知れない。
「辛い」
 そりゃ辛子高菜だしな。いわゆる飯の友ってのはご飯と一緒に食うことが前提となっているので味が濃いものが多い。辛くて当然だ。
 観察していると、長門は普段よりもご飯に箸を付ける頻度が高い。まだメインのおかずにあまり手を付けていないのにお代わりをしたり、いつもの食事に比べて米を食べる割合が増えているようだ。
「……なに?」
「いや、よく食うなと思っただけだ」
「あなたも食べて」
 と言って、長門はこんもりと高菜を俺の茶碗に盛る。余った分はタッパにでも詰めて冷蔵しておこうと思ったんだが、このままじゃ今回だけで一袋なくなってしまいそうだな。
「大丈夫、ご飯は多めに炊いてある」
 そうか。


 と、そんなわけで長門につられて俺も食い過ぎてしまった。しかも米が中心だったせいかずっしりと重い。
「横になってるといい」
 あれだけ食っても長門は身軽に動き回っている。風呂桶を洗っている音を遠くに聞きながら横になって体を休める。
 食ってからすぐ寝ると牛になると言われているが、実際は食後は少し休んだ方が消化にはいいらしい。まあ長門は消化が早いようなのですぐ動き回っても問題ないのだろう。
「あとはお湯が溜まるのを待つだけ」
 準備が終わって戻ってきた長門はコタツに座ってお茶を淹れる。
「はい」
 差し出された湯飲みを傾けるとなんとなく腹がすっきりした。
「悪いな」
 何から何まで長門にやらせていて申し訳ない。
「いい」
 自分の湯飲みに注いだお茶を飲んでから俺に視線を向ける。
「今は消化に専念すべき」
「ああ」
 お茶も飲んだことだし、風呂に入る頃には落ち着いているだろう。
「夜はエネルギーが必要」
「そうか」