今日の長門有希SS

 人類にとっていかに異性を惹きつけるかは永遠の命題であり、モテようかという奴がいるからこそファッション誌などの商売が成立しているのだろう。仮にこの世に同性しか存在しなければ、わざわざ金をかけてまでお洒落をしようという奴は激減するだろう。
 健康的な男子高校生ならば、女性と交際したいという欲求は誰にでもあるはずだ。まあ世の中には人類ならば性別を問わずに愛することができたり、はたまた同性を愛する者も存在するのだが、比率としてはそれほど多くないはずだ。
 ともかく、そんな欲求を体現しているような奴が目の前にいるこの谷口だ。何かあるたびにナンパをしようと言いだし、どうすればモテるのかという話ばかりしている。
「わかってねえなキョン、女を口説く時は言葉も大事なんだよ」
 今回の独演会は女性の口説き方についてだ。いつものように教室内で突如開催されるこの独演会は周囲にいる女子生徒を引かせる効果が高く、もし仮に俺が長門と交際していなければ恐らく他人のふりをしているだろう。
「最近の流行はこれだ、ちょっと耳を貸せ」
 また妙な文句を思いついたのだろう。やれやれと肩をすくめると「聞かなかったことを後悔するぜ」と言いながら国木田に耳打ちをしようと顔を近づける。
「あなたと合体したい」
 聞こえてるけどな。俺の耳にはっきり聞こえたということは、近くの女子グループの中で聞き耳を立てている朝倉や他数人の耳には入っただろう。
「合体……」
 誰かが絶句するかのようにぼそりと呟いた。
「これで女はイチコロだぜ」
 その物言いが周囲の女子生徒を引かせて谷口の評判を落とし、少なくともクラスの中ではまともな恋愛などできそうにもないのだが、本人がそれに気付いている様子は今のところない。
 と、普段通り休み時間を過ごして席に戻ると、いきなり襟を引っ張られた。
「あなたと合体したい」
 何を言ってるんだお前は。
 俺を机の上に引き倒すようにして睨みつけていたハルヒは、しばらくそうしたあとでいきなり手を離す。
「聞こえてきたわよ、相変わらずバカなんだから」
 谷口の頭があまりよろしくないことについては同意しておこう。
「あんたもよ。SOS団の評判が悪くなるようなことはしないで欲しいわ」
 既に評判は芳しくないと思うけどな。それに俺は別に何もしちゃいないぜ。
「まあいいけど」
 授業開始のベルが鳴って解放されることになったが、ハルヒはまだ不満そうだった。


 と、そんなこんなで時間は流れて昼休み。長門と部室で食事をするのが日課になっている俺は弁当を持って部室棟に向かう。
 ドアを開けると既に到着していた長門は本を置き、くるりと体を俺に向ける。
 そして長門は、おもむろに制服に手をかけた。するすると、手早く制服を脱いで行く。
長門……?」
 突然のことにどうしていいかわからず、とりあえずドアを閉めて様子を見守っていると、長門はこう呟いた。
「やらないか」
 やらない。