今日の長門有希SS

 子孫を残すのは生物に組み込まれた本能であり、あらゆる生物にはそうするための機能がある。動植物はその繁殖方法によって分類されており、地球規模で見れば卵を産む生物が多いだろう。中には分裂などによって増殖するものなどもあるが、人間を含めた多数の生物は繁殖のために雄と雌が必要である。
 生殖のために雄と雌にそれぞれ別の役割がある。精細胞を作り出すのが雄で、卵細胞を作り出すのが雌だ。それらが結びつくことによって子孫が誕生するわけである。
 この生殖のための機能が厄介である。男にはそれほど悪影響はないのだが、女の場合は月に一度それがやってくる。生理やあの日と呼ばれ、正式には月経と呼ばれるそれは、人によって差はあるものの大抵の場合においてあまり好ましいものではない。
 月経の前後、何らかの体調不良を感じる女性は少なくないだろう。痛みだったり、具合の悪さだったり、人によって様々だが、体調がよくなるといった話は聞いたことがない。
 仮に本来の予定通りにそれが来なくなってしまえば、妊娠やら栄養不良の心配をしなければならずそれはそれで問題であり、誰しも一度はなくなればいいなと思いながらも、実際になくなると取り乱してしまうものなのだ。


 長々とそんなことを回想しているわけだが、別にこの場にいる人間がまさに生理真っ最中というわけではない。いや、だからと言って止まっているわけでもない。月の巡りによってまたちゃんと次回もやってくる――はずだ。来ないと困る。
 ともかく、ここにいる自分たちには関係がないようで、実のところその影響下にあるらしい。目の前にいる長門によるとそういうことらしい。
涼宮ハルヒの生理痛が原因」
 以前にも長門からそんな話を聞いた。あれから時間が経ってそんなことがあったのをすっかり忘れかかっていたが、どうやらまたそれが再発したらしい。
「で、またわたしたちは変わったのか」
「そう。生理痛から逃れたいと思った涼宮ハルヒが、無意識的に世界を改変した」
 長門の話によると、わたしは本来は男であり、長門は女であり、話に出てきた涼宮ハルヒというのは生理痛で世界を改変してしまった迷惑な我らが団長様の女性だった頃の名前らしい。
ハルヒコがハルヒか、うまく女の名前に変えたもんだ」
「逆」
 長門に言わせると、今のこのわたしたちの方が間違っているらしい。何度言われても実感はないけどな。
「で、またわたしたちには何もできないと」
「そう」
 ゆっくりと長門の頭が下がって戻る。
 以前にもあったことだが、これはハルヒコの生理期間が終わってしまえば自動的に戻るらしい。だからわたしたちはただ静観しているだけだ。
 以前聞いた時にはこの世界もなくなるとか言っていたような気がするが、あれからわたしたちは何事もなく過ごしていたわけで、いまいち実感は持てない。
「それは改めて作り出された際にあなたに作られた仮の記憶」
「そうか」
 なんとなく、どうでもいいことに思える。それに悠長に話している状況ではなかった。
「それより長門
「なに」
 こういうことを口に出すのは少々気恥ずかしいのだが、このままでは今の状況について延々と議論を続けることになってしまう。
「続きを……」
 長門がこのような話を始める直前まで、わたしたちはまあいわゆる愛の営みの最中だった。いや、もちろんまだ子供を授かるわけにはいかないので、それなりの対処はしているぞ。
「わたしは女。女性であるあなたと交わることはできない」
 いや、前になんか理由付けてわたしを完膚無きまでに敗北させてくれたじゃないか。
「あれは気の迷い。もうしない」
 いや、こんな中途半端な状況で放置されると非常に困るのだが。それに、わたしから見れば長門は今まで通りの長門だし、全裸だし。
「それなら」
 長門の口から何かテープを早回しにしたような音が漏れたような気がすると、長門が体を曲げる。いや、体を曲げているのではなくて、じわじわと長門が縮んでいる。
「これが本来のわたし」
 そこにいたのは、少しだけ長門と似た雰囲気の小柄な女の子だった。わたしよりも体が小さいし、わたしよりも胸が小さい。知らずに見せられて長門の妹と言われれば納得してしまうだろう。
「男の時のあなたは男になったわたしと似た性癖があると思われる」
 そうか、お互い苦労してるんだな。
 って、そうじゃない。
「そんな姿じゃ学校に行けないだろ」
「大丈夫、この姿が見えるのはあなたや一部の人間だけ」
 問題ないのはわかったが、何でそんなことを?
「わたしが女であることをあなたに納得してもらうため」
 まあ言わんとしていることはわかったが、もう少しで……という状況だったんだが。もう少し待ってくれてもよかったじゃないか。
「文句は涼宮ハルヒに言って欲しい」
 そうか、それじゃ無理だな。ハルヒコに生理の話をしても頭がおかしくなったと思われるだろう。
「わたしは女だからあなたを満足させることはできないけれど、対処法もなくはない」
 長門がベッドから抜け出して戸棚の方に行き、引き出しごと取り出して持ってきた。
「これは……」
 中身を見てわたしは驚愕する。
 凶悪なフォルムの棒状の物体やら、本来は肩こりの解消に使う器具など、そっち系のアイテムばかりがぎっしりとその引き出しに詰め込まれていたからだ。
「使ってもいい」
 いや……使っていいと許可されても困るんだが。つーか、これは一体、どうしてこんなところにあるんだ?
「男のあなたがわたしのために買った」
 変態だな、そいつ。
「わたし的にはこれとこれの組合せがおすすめ」
 長門は面食らっているわたしの手に器具を握らせると、とことことドアに向かう。
「ちょっと待て、どこに行くんだ」
「外に出ている。使い終わって気が済んだら呼んで」
「使わん」


 とまあそんなわけで、どうやらまた何日か妙な日々が始まるらしい。