今日の長門有希SS
ブームには色々な規模のものがある。テレビなどで特集され大々的に流行するものもあれば、一部でしか流行っていないものだってある。規模が小さいものは果てしなく小さくなるもので、ある集団だけとか、更には特定の個人だけがはまっているマイブームなんてものもある。
そしてブームになる物も様々だ。テレビでは海外ドラマが流行ったこともあるし、ペットを育成する携帯用のオモチャが流行ったこともある。商品でなくても、言葉遣いだとかブームになるものは多種多様である。
そんなブームが俺たちの教室にも到来していた。見回すといくつかのグループが机を囲んでいる。
「ほらキョン、お前の番だぞ」
「ああ」
谷口に指摘されて俺はシャープペンシルを持ち、机の上に置かれたルーズリーフの上にそっと立て、ペンを倒す。
「いい位置に着けたじゃねえか」
それを見て谷口がうなる。確かに俺の引いた線は思い通りの位置で途切れている。
さて、俺たちがやっているのはゴルフに見立てたゲームである。
一つのホールはルーズリーフを三等分にしたくらいの小さなものが主流で、指で弾かれたペンの軌跡をティーグラウンドからピンまで届かせるとクリアだ。
ちなみにこれにも実際のゴルフのようにバンカーや池などが存在する。バンカーは一打、池に落ちると二打分のペナルティがある。
このあたりのルールは谷口が考えたものだ。最初は谷口が授業中に暇つぶしでやっていたものだが、そのうち国木田や俺を巻き込んでプレイするようになり、いつの間にか俺たち以外のグループにもルールが伝わっていた。
しかもこのやっているのは男だけではない。子供っぽいと真っ先にバカにしそうなハルヒまでもが朝倉や他の女子生徒を巻き込んでこのゴルフに夢中になっている。
「おっと、時間か」
二ホール目の途中でチャイムが鳴って休み時間が終わる。谷口がルーズリーフをしまい込み、俺たちはそれぞれの席に戻った。
「やらない?」
授業中、ハルヒが後ろから声をかけてくる。振り返るとコースの描かれたルーズリーフがある。
「やらん」
多少のことでは教師からは怒られることもなくなった俺たちだが、さすがに授業中に後ろを向いてシャープをぱたんぱたんと倒しているとまずいので、その誘いに乗ることはない。
「放課後でいいだろ」
ここのところ、SOS団内でもこのゴルフがブームになっている。五人でやるとコースが線だらけになるが、長門がいるのでそれぞれ誰がどの線なのか間違えることはない。
「わかったわよ。それじゃあ、コース作っておくから覚悟しておきなさい」
こうして今日の放課後もまたゴルフ三昧と決まったわけだ。
「疲れた?」
帰り道、隣を歩いていた長門が俺にそっと話しかけてくる。
「まあな」
結局、ハルヒの作ったホールは実際のゴルフと同じように十八番まであった。それを五人で回るまでにかなりの時間がかかり、帰る頃には真っ暗になってしまったわけだ。
「夕飯はわたしが作る」
「ああ」
人間のできる範疇で最大限に努力した長門は少ない打数で回ったため、活動時間のほとんどは待ち時間となっていて読書をして過ごしていた。最後の方では集中力が尽きて何度も何度もペンを弾いていた俺とは体力の消費量が違うだろう。
「また今度埋め合わせする」
「それならお願いがある」
長門のお願い? 別に何もなくても聞くけど一体どうした?
「夕飯が終わった後、もう一ホールやって欲しい」
やれやれ、あれだけやっても足りないと言うのか?
「そうではない」
長門は俺の耳にそっと口を近づける。
「夜の十九番ホール」