今日の長門有希SS

 手慰みという言葉がある。
 何の気なしにペンを回してみたり、電話をしながらコードをくるくると指に巻き付けてみるなど、気がつくとやっているような行為だ。何かに集中しているか、その逆にぼーっとしている時に行っている場合が多い。
 今回はどうでもいいことを考えていた。長門が料理をしているのを横になって待ちながら、最近は特にトラブルもなくて平和だなと回想していた。
 平和なのはいいことだ。
 我らがSOS団の団長涼宮ハルヒは、はた迷惑な事態を引き起こすことにかけては天才的な才能を持っている。本人に悪気がないのは救いだと言えるかも知れないが、自覚なくトラブルを巻き起こしていると考えると、逆にたちが悪いとも言える。
 とまあ、俺たちの平穏な生活はジェンガのように安定性のない状態にあるわけで、ちょっとしたボタンの掛け違いがトラブルを生むこともある。
 まあ、ハルヒが原因といえなくもないのだが、今回に限ってはハルヒが悪いとは言えない。


「……」
 向かいに座る長門は無表情に俺を見ている。俺にしかわからないだろうが、長門の機嫌はあまりよろしくない。
「説明して」
 既に一度説明はしたのだが、長門はそれでは納得してくれなかった。
 長門の作ってくれる料理を待ちながら、横になって考え事をしていただけだ。
「誰のことを?」
 ハルヒのことを考えていた、と言っても間違いではない。
「何をしていた?」
 手慰みに……その、なんとなくいじっていたわけだ。股間を。
 さて、男性諸君ならわかっていただけるだろう。ぼーっとしながら、気付いたら股間を触っていたという経験は誰にでもあるはずだ。
 別にやましい気持ちなどない。ただ、他の場所に比べて出っ張り、適度に柔らかく適度に弾力のある股間は、つまんだり引っ張ったりするのにちょうどいい。
 しかしながら、今の状況を言葉にすると、
「あなたは涼宮ハルヒのことを考えながら性器を摩擦していた」
 ということになる。
 長門の部屋で、他の女の子とを考えながら股間を触る。
 性的な意図や目的があったわけではないと長門もわかっているとは思うのだが、それでもやはり見過ごせる状況ではないということか。
「なんとなくだな、ふくらんでいるから触ってしまうわけだよ。長門も解るだろ?」
「……」
 長門は俺を見据えていた視線を、すっと下に移動させる。
「わたしではなく朝比奈みくるならその可能性はある」
 しまった、更に地雷を踏んでしまった。長門は己の胸が小さいことを気にしており、それを指摘することはもちろんだが、こうして連想させるのも御法度である。
 こういう場合、明け方になるまで長門の胸のサイズが適切であると証明する必要がある。それはまあ仕方ないし、俺も自己催眠によって長門を更に魅力的に感じられるのでかまわないのだが、問題は今が夕飯前だということである。
「この続きは夕飯の後で」
 長門はすっと立ち上がり、コタツ机の上におかずを並べる。焼き魚、サラダ、みそ汁など。
 それらは、不自然に長門から近い位置にある。
「あなたのおかずはこれ」
 そう言うと、長門は卵のパックと醤油差しを置いた。