今日の長門有希SS

 12/2512/26の続きです。


 UFOと聞けば宇宙人の乗り物だとタイムマシンなどをイメージする者は多いと思われるが、実際にはUFOという言葉にそのような意味はない。未確認飛行物体を意味する英語の頭文字を並べたものがUFOであり、要するに正体がわからない浮遊物全てはUFOと呼ぶことが出来る。
 だから必ずしもUFOには現代の科学を超越した技術が搭載されていたり、何らかの超自然的な手段を用いて飛行している必要はなく、通常の航空機と同様の技術で飛行していたとしてもその正体がわからなければいい。更に言えば機械である必要すらなく、単なる鳥でも正体さえわからなければUFOと呼ぶことができるわけで、要するに飛んでいる物は全てUFOと呼ばれる可能性を持っている。
 しかしながら、ハルヒが言うUFOがそのような意味でないことを俺は確信している。ハルヒが求めているのはあくまで不思議な物としてのUFOである。現代を遙かに凌駕した科学技術やあるいは超自然的な力によって飛行しており、中に乗っているのが宇宙人や未来人であったりするものだ。
 しかしながら、未来人であるところの朝比奈さんは時間遡航の際に乗り物を必要としていないようであり、はたまた長門の能力を考えると乗り物を用いて地球にやってきたとは思えない。
 最も未確認飛行物体に近いのは、超能力者であるところの古泉である。例の灰色空間で古泉の能力によって生じた赤く光る球体の形状とその動きを思い出すと、正体を知らぬ者が見ればUFOだと思っても不思議はない。
 さて、ハルヒが仮に本気でUFOを目撃したいと考えているならば、一体何が起きるのだろう。俺が知る限り、一般的な意味でのUFOに近いのは超能力を使っている時の古泉であるが、その正体は未来人や宇宙人の乗り物でなければいけないはずだ。しかし、未来人や宇宙人が乗り物を必要としていない現状を考えると、ここには何か大きな矛盾が生じるような気がする。あちらを立てればこちらが立たず、現状に矛盾なくハルヒの望むUFOを出現させるのは少々難しい気がする。
 しかし、ハルヒの能力は何でもありだ。俺が考えたようなことは全てひっくり返して、そもそも今までの前提をなかったことにしてUFOを出現させてしまうことだってありえない話じゃない。急遽、未来人の時間遡航手段が乗り物に変更されることもハルヒが望めば起こりうるのだ。
キョン、ちゃんと聞いてるの?」
 気が付くとハルヒ仏頂面で俺の顔を見ていた。
「あ、ああ……」
「嘘。さっきから生返事だったじゃない。今あたしが聞いたことを言ってみなさいよ」
 俺は何も答えられずに口ごもってしまう。考え事をしていたせいで、相づちは打っていたのだが話していることをちゃんと聞いていなかった。
「すまん」
 二人で話していたというのにちゃんと話を聞いていなかったのだ。怒鳴られても仕方がないと思ったが、ハルヒはふうと溜息をつく。
「いいわよ。でも、聞いてないなら最初からちゃんと言いなさいよ」
 ぷっくりと頬はふくらませたままだが、話はそれで終わってしまった。意外なことで俺は少々面食らう。
「あんたずっと何考えてたのよ?」
 何を考えていたのかと聞かれると俺の答えは明白だ。まあ、俺は見せないためにどうするか考えていたわけであり、その意図を知られるとハルヒは今度こそ機嫌を悪くするだろうが。
「UFO――」
「あ、UFO? ふうん……そうなんだ」
 ハルヒは少し考えるように俺の顔を見つめている。
「UFO――だ」
「何回も言わなくていいわよ。はいはい、わかったから」
 こちらに顔を向けたままそう苦笑する。
 まずい、この状況はまずい。
 UFO――そう、UFOだ。


 見上げた木々の間、うすぼんやりと光る球体が浮かんでいた。