今日の長門有希SS

 寒い時には厚着をするのが基本である。インナーや上着を暖かい物に変更するのが一般的ではあるが、マフラーを巻いて首から入ってくる冷風を防ぐだけでも体感温度はかなり変わってくる。
 しかしながら、寒い中、しかも自転車に乗っている時でも俺はマフラーを巻こうとは思わない。もちろん寒いのを好むわけでもないし、マフラーを巻くことに何かしらのトラウマがあるわけでもなく、ちょっとした理由があるからだ。
 さすがに運転しながらなので無理だが、もし振り返ることができればすぐ近くに長門の顔があるだろう。まあ、仮に自転車が停止していても首に手を巻き付けられている状態では後ろを向くのが少々難しい。
「おっと」
 ちょっとした段差でがくんと車体が上下したが、長門の腕が外れたりするようなことはない。まるで何も乗っていないかのように体重を感じさせない長門は、少々の揺れではびくともしない。
 それでいて体温はきちんと伝わってくる。密着している背中と首周り。首をきっちりとホールドしているわりには締め付ける感覚はほとんどなく、熱と肌触りだけが体感できる。冬に自転車に乗るならば普通はもう少し暖かい格好をするべきだろうが、防寒着を身につけてしまうと長門の体温が感じられなくなってしまうので、あえてこうしているというのもある。
 まあ、外気に触れっぱなしの手は寒いので手袋をしているが、それはまあ仕方ないだろう。長門の手をここまで届かせるのは無理のある話だ。長門には無理ではないのだろうが、さすがに人目に触れる状況ではまずいだろう。
 かといって、二人きりの時でも長門はあまり無茶なことをしない。仮に望めば長門はどのようなことでもできるが、常人離れした行為を俺は望まない。長門も普通の女の子でありたいと思っており、人類に可能な範囲を逸脱したようなことは滅多にやらない。
 そうでなければ、かなり特殊なプレイだって可能になる。俺と長門の性別を変えることだってできるかも知れないし、感覚を残したまま股間だけ切り離すことだって可能だろう。舌の本数を増やしたり手のひらをゲル状にすることだってたやすいだろうし、かなり魅力的ではあるのだが、やはりそれに踏み出すのは問題がある。
 確かに魅力的である。魅力的だ。しかし駄目だろう、いくらなんでも。
「……」
「どうかしたか?」
 何か言いたそうな気配を感じて声をかけるが、長門からは「別に」としか返答がない。気のせいだったのだろうか。
 しかし、長門とこうしていると心が安まるのはなぜだろうね。背中に押しつけられた長門の体は隙間なくぴっちりと密着している。そう、密着しているのだ。この感覚は長門だからこそのものであり、俺の背中全面を暖かくできているわけだ。他の誰かではこうはいかない。これが朝比奈さんだったらどうだろうか。いや、ハルヒでもこう密着感まではないだろう。確かに一般的に見ればマイナス要因かも知れないが――ぐあ。
「……」
「な、なが……」
 息が――できな、い――


 その後、ささやかだけど長門の胸は膨らんでいて弾力もあると小一時間ほど力説するはめになった。