今日の長門有希SS

 07/11/25の続きです。


 涼宮ハルヒが何らかの不満を口にした場合、それが些細なことであっても気を付けなければいけない。なぜならハルヒ本人に自覚はないが世界を思った通りに作り替えてしまう力があるからだ。
 と、そんな基本的なことを思い出したのは帰宅した時だった。正確には郵便受けに入っていた封筒を開け、その中身を確認してからしばらく経ってからだった。
「なんだこりゃ」
 入っていたのは部室でハルヒが読んでいた雑誌である。歴史上の事件がどうとかいったコラムのようなものが写真付きで掲載されている。
 さて、このような本を注文した覚えはないし、恐らく家族も注文していないだろう。何か嫌な予感がして携帯を見ると、監視カメラでも付いているんじゃないかと疑ってしまうようなタイミングで着信メロディが流れた。
「どうした」
 ボタンを押して相手に問いかけると「だいたいの事情は察しているかと思いますが」と返事が返ってくる。
 受話器の向こう側にいるのはSOS団専属のイケメン野郎の古泉だ。電話では相手の姿は見えないがそのスカした面が目に浮かぶ。
「この本の話か」
「まさしくその通りです」
 あの一件がなければ間違って届いてしまったか家族の誰かが知らぬ間に購読を申し込んでいたとまず考えるが、よりによってこれについて話したその日に家に投函されていればあいつがまた何かやったのかとわかるさ。
「今からご足労願いたいのですが、よろしいでしょうか」
 仮によろしくなかったとしてもこのまま放っておくわけにはいかないだろう。
「で、どこに行けばいいんだ?」


 古泉が告げたのは家からそう遠くないファストフード店だ。入った時点で店の奥に古泉や朝比奈さん、それから長門の姿が見えたので、俺は安いドリンクを注文してそちらに向かう。
「一体これはどうしたんだ?」
 テーブルの上に封筒を投げ置く。バシッと乾いた音が鳴り響いた。
 あいつがこの本に何らかの不満を持っていたのはわかったが、それを俺に送りつける意図はわからん。
 ハルヒは確か、続刊の内容が既に宣伝されていると不満を持っていたはずだよな。そして、その続刊の金額が高いことにも。
 となると、ハルヒの持っている不満を解消する最も簡単な方法は、涼宮家にこの本の続刊が配達され続けることである。俺の家に同じ物を届けてどうするんだ。
「まず現状を説明しておきましょう」
 古泉はそう言うと、隣の席に置いてあった鞄を開けて中から封筒を取り出す。
 俺の家に送られてきたのと同じような大きさだ。
「同じ物です」
 古泉が封筒から引っ張り出したのは、俺の家に届いたのと同じくハルヒが読んでいた本だ。
「まさか」
「はい」
「わたしの部屋にも」
 朝比奈さんと長門も同様に本を取り出す。
 俺だけではなく他のメンバー全員に本を行き渡らせたのはどういう意図だ。あいつは俺たちSOS団の全員にもこの本を読んで同じ失望感を味わわせたいと言うのか。
「そのような意図ではないでしょう」
 古泉はゆっくりとかぶりを振る。
「どうしてそう言い切れるんだ?」
「それは簡単です」
 古泉が言い出した言葉を聞いて、さすがの俺もあきれ果てることになる。
「我々が調べた限り、この封筒は日本中のあらゆる家庭に配達されています」
 あいつは一体何を考えているんだ。