今日の長門有希SS

 特に面白いわけでもないのに、何度も読み返してしまう本がある。
 枕元にあって寝る前に何の気なしに読んでしまうものだったり、たまたま机の上に無造作に置かれていたりするものだったり理由は様々なのだが、手に取りやすい位置にある本は気が付いたら読んでいることが多い。
 ただし、その手の本は読もうと思って読んでいるわけではないので、ただ中身を眺めながらぱらぱらとめくっているだけの場合が多い。だからと言って四コマ漫画のようなどこから見てもいいようなものを読んでいるのかというと必ずしもそうではなく、なぜかストーリー漫画の中の一冊だけを繰り返し読んでいる場合などもある。
 長門の場合はどうだろう。俺の場合は読んでいるのが漫画だが、さすがに小説でそのようなことはないだろう。一部、例外として漫画も何冊かは所有しているのだが、基本的には小説が大半のはずだ。小説なら眺めている程度では中身が頭に入ってこないし、そもそも途中だけ何となく読むというのは漫画などに比べてなかなか難しい。長門本人の意見も聞いてみたいところだ。
「で、どうなんだ?」
 聞いてみたかったので、直接その疑問をぶつけてみた。
「……」
 長門はしばし、俺の質問の答えを探すように視線を宙に泳がせる。
「途中の巻だけ読むことはあまりない」
 やっぱり小説の場合はそういうのはないか。
「わたしの場合、シリーズ作品は並べてある。一冊だけ別の場所にあるというのなら、それは整頓されるべき」
「わかっちゃいるんだが、何となく片づけられなくてな」
 何度も読んでいるうちに愛着が湧くことがあり、そういった本はいつでも読めるようにとそのままにしてしまう。
 長門にはそのような本はないのだろうか。
「ないこともない」
 長門ならば一度読めば内容も頭に入るだろうし、その内容を忘れることもないはずだ。それでも読むのなら、よっぽどお気に入りなのか?
「そう」
 長門がそんなに読む本がどんなものなのか妙に気になった。俺が読んでも面白いのだろうか。
「……」
 無言で首を傾げた。俺には理解できない本なのかも知れない。
「あなたはどのような本を?」
 別に大した本じゃないさ。漫画ばかりだし、あまり興味はないだろう。
「少しある」
「それじゃ、今度の休みに部屋に来るか?」
「……」
 こくりと首を縦に振った。


 長門はそこで麻雀漫画と出会い、後に「神域の女」として裏社会にその名を轟かせるのだが、それはまた別の話だ。