今日の長門有希SS

 秋は特別な季節である。
 人によってはスポーツだったり、芸術だったり、はたまた食欲だったりするのだが、ともかく人は秋に何かを始めたがるものである。なんとかの秋みたいな言葉は他の季節にはなく、体育祭や文化祭などの行事は秋に実施されることが多い。
 まあ、学校行事については気候以外にも様々な要因があるのだろう。特に文化祭は多大な準備期間を要するものであり、熱心なクラスにとっては夏休みを潰して作業することも可能になる二学期に実施するのが好ましいのだろう。いや、冬休みに作業をして三学期に行うのも不可能ではないのだが、やはり冬休みが終わると受験だ卒業だと慌ただしくなってしまう。ま、当事者の三年以外はいつも通りと言えばいつも通りなのだが、さすがにそこに文化祭をぶつけてもいいと思うほど無関心ではない。自分には関係ないが、かといってそこまで無関心になれるほど達観しちゃいない。
 ま、そんなことはともかくとしてだ、秋ってのは人を新しい何かをやろうって気分にさせてしまう季節なのだ。
 そしてそれは、年中新しい何かを求めて駆け回ってる奴にとっても例外じゃない。
「ぼーっとしてんじゃないわよ」
 ホワイトボードの前に立ったハルヒに頭を小突かれ、宙に浮いていた意識が戻った。ここは部室であり、今は放課後であり、ハルヒと朝比奈さんがホワイトボードの前に立っている。
 今日のテーマは「次の休みに何をするか」について。毎週のように行っているパトロールが無意味なものであるとハルヒはようやく気づいてくれたらしいが、かと言って週末が自由の身になるわけではなかった。
「ほら、たまには気分転換よ」
 とかなんとか言っていたが、SOS団で揃って過ごすのなら何をやってもそれほど気分は変わらない。今だ諦めず不思議を探そうとしているハルヒにとっては肩の荷が下りた気分なのかも知れないが、少なくとも全く探そうとしていない他のメンバーにとってはいつもと大して変わらない。それだけでなく、普段よりもハルヒの行動が予想できなくなるため、むしろ余計な気を遣わなければならないのだ。
キョン、あんたもなんか提案しなさいよ」
 と言われても特に思いつかないし、何か思いついたとしてもそれが危険かどうかを考慮しなければならない。そのため、ホワイトボードに書かれている項目はハルヒの提案したものばかりだ。つーか、カバディとかセパタクローなんてルール知らないぞ。
「知らないから面白いんじゃない」
 そうか。
 何をやっても面倒なことになりそうだが、わけのわからないスポーツをやるよりはもう少しハルヒが暴走しづらいものを俺たちが考えたほうがいいだろう。
「読書……」
「え?」
 ホワイトボードに書いてあったのをつい口に出してしまっただけなのだが、大人しいのはそれくらいしかない。
「これ、提案したの誰だったかしら」
 書かれているのはほぼハルヒが提案したのだが、読書は別の誰かの発言らしい。
「わたし」
 長門がすっと手を挙げる。ま、そりゃそうだよな。
 まあハルヒに強要されて無理矢理ひねり出したものだろうな。何しろ読書の秋ってのはありふれている定番の言葉だ。
「読書って、何するの?」
「みんなで図書館に」
 朝比奈さんや古泉は長門と組むことになった場合、ハルヒの目が届かなければ図書館に連れて行っていることがあるらしく、そう考えるとハルヒ以外の誰にとっても普段の週末とそれほど変わらない過ごし方ってことになる。
「ふうん」
 しかしながら、ハルヒは何やら葛藤しているようだった。
「たまにはいいかも知れないわね。今までちょっと奇をてらったものを考えていたけど、ここは敢えて王道ってのも悪くないかも知れないわね」
 意外なことにハルヒはその提案がいたく気に入ったらしい。
「決まりね。今度の週末は図書館で読書をするわよ」
 そして、そんな風に決まるのであった。