今日の長門有希SS
活動の後は連れだって学校を出る。授業中に降り始め、部室にいた時にぱらついていた雨も、帰る頃にはすっかり上がっていた。
「助かったわ。今日は折り畳み忘れちゃったのよ!」
空を見上げてハルヒが笑う。
もしやとは思うが、雨が止んだのはこいつが傘を忘れたからってのが原因じゃないだろうな。未来的に本来の今日の天気はどうだったのか聞いてみたいものだ。合流した朝比奈さんの手にある傘を見れば、その必要もないかも知れないが。
「天気予報では午後からずっと雨だったんです」
そういや今朝は起きるのが遅くなって天気予報を見る暇がなかったな。いや、別に遅刻するほどじゃなかったんだが。
「それじゃ帰るわよ。ほんと、雨が降ってなくてツイてるわ」
ツイてるのは事実だな。雲は残ってるが雨が降っているよりは確実にましだ。
まあ、そんなわけで俺たちはいつものように集団下校である。雨上がりの夕方は涼しく、秋の訪れを感じさせる。ま、冬服への移行期間だしな。
「キョン」
しばらく歩いたところで、先頭を歩いていたハルヒが振り返っていた。
「どうした?」
「あんた、ここで横になりなさい」
またこいつは妙なことを言い出した。何かあるのかとハルヒの前に目をやると、そこにあったのは大きな水たまりだった。
「何を言っているんだお前は」
「ほら、よくあるじゃない。俺の上を渡れ! ってやつ」
B級映画にありがちな光景か。実際にどの映画でそんなシーンがあったのかはわからないが、なんとなくB級映画にありそうな光景ある。
「渡ってあげるから早くやんなさいよ」
断る。だいたい、確かにでかい水たまりかも知れないが、迂回すりゃいいだけのことだろ。道幅全てを塞いでいるわけじゃないんだ。
「なによ、もし崖があってもあんたは同じことを言うの?」
それとこれとは話は別だが、俺の体で橋がかけられる程度の崖なら飛び越えられるんじゃないのかお前は。長門はもちろんのこと、古泉だって男なんだし大丈夫だろうな。
「みくるちゃんは?」
朝比奈さんは……確かにちょっと厳しいかも知れないが、そのあたりは……ええと。
「大丈夫」
長門が不安げな表情を浮かべていた朝比奈さんの肩に手を置く。
そうだよな。いざって時は長門が手を貸せば、ちょっとした崖くらいは――
「わたしが全力で放り投げる」
長門が本気で朝比奈さんを投げた場合、それは投擲と表現してもいい状況になるだろう。そしてその威力はかなりのものであり、朝比奈さんの体が無事かどうかは難しい。いや、確実には無事ではすまされない。
「その場合は怪我をしない程度に投げてくれ」
「そうする」
で、あんたはどうするのよ?
俺だって男だ、それくらいの幅なら飛び越えられるだろ。
「どうかしらね。きっとじわじわ幅が広がって、あんたが飛ぶ時には陸上選手でも飛び越えられないくらいになってるのよ」
なんだそのご都合主義的な崖は。
「大丈夫」
長門が俺の肩に手を置く。
そうだよな。長門が投げてくれれば安心だ。
「仮にあなたが死んでもあなたの子孫はわたしが守る」
と、自分の腹をそっとさする。
その後、ハルヒに追い回されて水たまりの中に放り込まれたりするわけだが、それはまた別の話だ。