今日の長門有希SS

 9/28分の続きです。


 さて、改めて俺たちの配置を説明しよう。
 まず寿司の流れるレール側に座るのは長門と朝比奈さん。長門は物珍しさに惹かれて奥に座ったのだが、朝比奈さんは全員にお茶を配るためだ。そのまま朝比奈さんが寿司を取って渡す側になったのは、不幸と言わざるを得ない状況である。
 ここのカウンターは時計回りであり、レール側に向かって左側が長門で右側が朝比奈さん。体をひねろうとしても上半身がひっかかってしまう朝比奈さんにとっては背後から寿司が回ってくるわけで、これまた不幸といわざるを得ない状況である。
 続いて二番手は俺とハルヒ。俺が長門の隣で、ハルヒが朝比奈さんの隣だ。ここまでは手を伸ばせばレールに手が届く範囲だ。
 そして、廊下側に座っているのが古泉と鶴屋さん。俺の隣が古泉で、鶴屋さんがその向かいになる。ここは手を伸ばしても寿司を取ることが出来ないので、他のメンバーに頼まないと寿司を取ることが出来ない。
「いやあ、何を食べているのか他の全員にわかってしまうのは少々照れくさいですね」
 お前はOLか何かか。
 このような配置であり、俺は自分で食う分を確保できる。本当ならばハルヒもそうするべきなのだが、自分では取ろうとせずレール側の朝比奈さん任せにしているので朝比奈さんは自分の寿司を取る余裕がない。
ハルヒ、そんなに朝比奈さん任せにしなくていいだろう。モノを食べる時は誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」
キョン、あんた何わけのわかんないこと言ってるのよ」
 そういうものなんだよ。
「すいません、あのカルビを一皿とっていただけますか?」
「ほらよ」
「ありがとうございます」
 皿を取ってやると、古泉はニヤケた顔でそれを口に運ぶ。
 しかしこいつは肉やらプリンやら、寿司屋にはミスマッチなものばかり食ってるな。まあその反対側にいる鶴屋さんが乳製品関係ばかりなので、それに比べるとまだましなのかも知れないが。
 さて、俺も何か食うか。皿に載って流れている掲示物によるとタイムサービスでトロなどがあるそうだが、流れているのは見かけない。仮に流れていたとしても他の場所で取られてしまってここまで回ってこないのだろうか。
「すいません、大トロください」
 ……返事がない。聞こえなかったのだろうか。
「……」
 そんな俺の肩を長門が無言で叩く。
「どうした?」
「あれで注文する」
 長門が指し示したのはテーブルの上に置かれた小さなディスプレイであった。
 先ほどからハルヒがなにやらいじくりまわしていたが、別に遊んでいたわけではなかったのか。
ハルヒ、それを貸してくれ」
 確かにそれは注文用の機械らしい。メニューが表示されており、指で触って注文するらしい。
 注文しようと色々いじってみるのだが、何故か注文できなかった。
「ああ、それ一度に頼める数が決まってるのよ」
 いかんな、タイミングがズレてる。


「お、きたきた」
 あの後、ハルヒの品が届いてから注文できるようになり、待望の大トロが流れてきた。
「……」
 これまで気づかなかったが、身を乗り出して手を伸ばすと長門の前をふさぐような状況になる。寿司を頬張る長門が俺の顔を見上げていた。
「邪魔か?」
「別に」
 とはいえ、じっと見られると気になるのだが。
「あなたの顔を見ながらのほうが美味しく食べられる」
 だめ? と首を傾げる。
 いや、駄目なわけないだろ。俺の顔くらいならいくらでも見ていいぞ。そうだ、二人でこう顔を見合って食うのもいいかも知れないな。
「ちょっとキョン、あんた有希にちょっかい出すんじゃないわよ」
 素早くハルヒが俺の腕をつかみ、背中に回して固定する。いわゆるアームロックという技である。
「があああ、痛っイイ」
「やめるにょろっ、それ以上いけないよっ」


 とまあ、そんなこんなで満腹になった。
 ちなみにこの店は食った皿をダストシュートのようなところに放り込む形式であり、俺たちが食った枚数は不明である。
「最後の二枚がきいたわね」
 腹を手でおさえてハルヒが呟く。調子に乗って頼みすぎなんだよ、まったく。
「それじゃあ今日は解散よ!」
 まあ、ハルヒも満足そうなのでよしとするか。何しろハルヒを退屈にさせると面倒なことになる。鶴屋さんの持ってきた食事券とやらは実のところ身内だから無料にするといった類のものであり、今回は鶴屋さんにおごられたような状況だ。感謝しなければならない。
「俺たちも帰るか」
 一度解散してから合流した長門と一緒に歩く。手でも握ろうかと思ったが、寿司を食ったせいでべたついていたので諦める。
「……」
 そんなことを考えていると、長門が俺の手を握った。何をするつもりかと見ていると、長門は俺の手に顔を近づけ――うわっ!
 長門は俺の指を口に入れ、舌で転がす。その舌使いがなんとも、んっ……はあ、はあ……
「いきなり、何を……」
「べたついているみたいだったから」
 そうだ、俺が勝手に快楽を得ていただけで、長門は別にやましい気持ちなんてなかったのだ。そう、だから俺が長門の指を、こう、舌で転がしても問題はないのだ。
「だめ……」
 長門の口から吐息が漏れる。駄目なはずなんてないさ。確かにここは天下の往来だが、今は周りに誰もいないんだ。
涼宮ハルヒがいる」
「え」
 恐る恐る振り返ると、何か用事にでも気づいたのか、ハルヒがいて、
キョン、何やってんのよ!」
 素早く俺の腕をつかみ、背中に回して固定する。いわゆるアームロックという技である。
「があああ、痛っイイ」
「それ以上いけない」
 長門の制止も関わらず、折れそうになるまで関節を極めるのであった。