今日の長門有希SS

 出会った当初は突拍子もない行動が目立った長門だが、ここのところは驚かされることもほとんどなくなっている。もちろん俺が長門と過ごすことに慣れたのもあるが、それ以上に長門も普通になったのだろう。
 と、思っていたのだが。
「えーと、これは何だ?」
「小麦粉」
 まあ、そいつは見ればわかるさ。
「薄力粉」
 そうか。
 薄力粉とか強力粉とか色々あるが、一体何が違うんだろうな。
「タンパク質の含有量」
 まあ知りたかったのはそういうことじゃなかったんだが、今はそれはどうでもいい話だ。
 ともかく、知りたいのはどうして小麦粉が六袋もここにあるのかだ。
「安かった。それに、節約するのにいいと聞いた」
 聞けば俺の来なかった日に自分だけで買い物に行き、そこで特売があったので買ってしまったらしい。トイレットペーパーなどの消耗品なら安いときに買い置きするのは長期的に考えるといいことだが、もともとあまり使わない小麦粉を大量に買うのは逆効果ではないだろうか。
 しかし、考えたこともないが小麦粉って日持ちするものなのかね。ひっくり返してみると賞味期限はあと三ヶ月ほど先だ。元々短いものなのか、賞味期限が迫ったから安売りしていたのかはわからない。
 何にせよ、これから一ヶ月あたり二袋使わなければならない。困ったものだ。


「で、困ったから呼ばれたわけ?」
 そして、困った時に頼りになるのが優秀な朝倉だ。色々と妙なスキルを抱えている奴なので、今回も何かいい知恵はないだろうか。
「ケーキでも焼いてみる?」
 確かにそれも悪くはないのだが、これだけの小麦粉を消費するとなると頻繁にケーキを食うことになるな。マリーアントワネットよろしく、パンの替わりにケーキを食えってことなのか?
「シフォンケーキなら簡単に作れるしパンの替わりに食べてもいいんじゃないかな」
 聞けば小麦粉と卵をわりと簡単に混ぜて作るものらしい。メレンゲを作るのが少々面倒くさいかも知れないが、そのあたりは泡立て機で簡単に出来るとのこと。朝倉はたまに作って何日かにわけて食っているそうだ。
 しかし、普段からそんな甘いものを主食にしていたとは、さすが朝倉だ。この太股もその成果というわけか。
「何か言った?」
 いや、なんでもない。
お好み焼きも作れますね」
 こちらは困った時にあまり頼りにならないがなんとなく来てもらった喜緑さんだ。普段は俺たちを混沌の渦に巻き込むような不規則発言の目立つ困った先輩であるが、今回は珍しく建設的な意見を述べてくれた。あまり頻繁に食べると飽きてしまうかも知れないが、お好み焼きは食事として消費しやすい。もちろんメインとして食うのもあるが、おかずとして食うことも可能だ。
 さて、これで方針は決まった。主な消費方法はお好み焼きで、たまにケーキなどを焼けばいい。他にも小麦粉を活用した料理はあるだろうし、六袋消費するのが不可能ではないように思えてきた。
「それじゃあ、今日はどっちがいい?」
「……」
 長門が俺の方に顔を向け、少しだけ視線を宙へ。
「両方」
 まあ、そう言うとは思っていたんだが。
 ともかく、今日のところはシフォンケーキとお好み焼きを作ることになった。