今日の長門有希SS

 いつものように放課後の活動が終わり、いつものように俺たちはこっそり合流して夕飯の材料を買うためにスーパーに向かう。
「今日は何を食べたい?」
「……」
 道すがらなんとなく聞いてみると、長門は俺の方に顔を向けてじっと見つめてくる。
「難しい」
 しばらくの沈黙の後、ようやく発せられたのがその言葉だった。
 いや、そんなに悩むほどのことじゃないと思うんだけどな。
「あなたの作ってくれるものはだいたいおいしい」
 そう言ってくれると作り甲斐があるってもんだ。作る機会があるから慣れてはいるが、それほど料理上手ってわけじゃないんだけどな。
「おふくろの味?」
 いや、聞かれても困るのだが。まあ間違いなく俺は長門の母親ではないが、家庭料理的なものを作っていることには違いない。


 結局、料理のことは何も決まらずにスーパーに到着した。
「見ながら決めるか」
「それでいい」
 結局のところ、よっぽど食べたいものが無ければ売っているものを見てから決めればいい。店に入ってから特売を知ることもあるのだから。
「今日は冷凍食品が安い」
 入り口のところに貼ってあるチラシを見て長門がそう言った。長門が手作りの料理を好むので冷凍食品はそれほど頻繁に使う訳じゃないが、あったらあったで便利なものだ。時間がなくてあまりおかずを作れない時に何品か追加することもできる。
「他は何か無いか?」
「ウナギ」
 ここでウナギを買ってしまうと、そのままご飯を炊いて鰻丼なんかを作って終わってしまいそうだな。最近暑くなってきているところもあるし、夏バテ対策にもいいかも知れないな。土用の丑の日とかはまだ関係なかった気がするが。
「それでいい」
 長門がいいならそうするか。なんとなく手抜きしている気がしないでもないが。
「汁物があればうれしい」
 丼と汁物か。外食するとそんな感じの組み合わせがあるよな。さて、汁物と言うが何にするべきだろうかね。
「肝吸い?」
 売ってるんだろうかね。
 しばらく売り場を探してみると、ウナギの肝は串焼き状態で売ってはいたが、肝吸いに出来るようなものは売っていなかった。いや、売っていても作ったかどうかはわからないのだが。
 汁物は冷蔵庫に残ってる野菜でみそ汁でも作ることにして、ウナギの蒲焼きやら足りなくなっていたトイレットペーパーやらをカゴに入れてレジに並ぶ。
「……」
 長門がレジの横を見ていることに気が付いた。何を見ているのかと思いきや、レジの横にはプラスチックのケースに入ったみつ豆が陳列されていた。
「食べたいのか?」
「少し」
 レジの横ってのは衝動買いを誘うよな。まあ、この際だから買ってしまうか。
 手を伸ばしてそれを二つカゴに入れようとしのだが、長門がその腕を握ってきた。
「どうした?」
「クリーム入りとあんこ入りの二種類がある。せっかくだから一つずつ」
「そうか」
 容器が似てるから気づかなかったが、よく見てるもんだ。
「帰ったら冷蔵庫で冷やさないとな」
 こくりと首を縦に振る。スーパーってのはコンビニと違って飲み物なんかでも冷えていない状態で売っている場合があって少々不便ではある。まあ、その分値段は安いのだが。


 長門の部屋に入り、ご飯を炊いている間、なんとなく長門がそわそわとしていた。大根のみそ汁はあっという間に作り終わって、ご飯が炊けるまでは暇である。
「今食べてもまだ冷えてないと思うぞ」
 それに、飯の前にデザートというのもなんだかもったいない気がするな。普段より安くなっていたとは言っても、ウナギはやっぱり高いものなんだし。せっかくだから腹が減った状態で食った方がいいだろう。
「そう」
 長門はなんとなく納得したように見えた。
 それからすぐにご飯も炊け、俺たちはウナギをのせて鰻丼にして食った。まあ、既製品だけあって味の方はまあまあ。良くも悪くもないが、紛れもなく鰻丼ではあった。
 食事が終わってしばらくして、長門は冷蔵庫からみつ豆を二つ持ってきた。
「どっちがいい?」
「……」
 クリームとあんこの間で視線を逡巡させる。俺は別にどちらでもいいので、長門に任せよう。
「こっち」
 と、長門はパッケージにクリーム入りと書かれた方を自分の手元に寄せる。俺は自動的にあんこになり、ふたを開けて作り方を調べる。
 透明なパックに入ったみつ豆を容器にあけて、その上からパックに入ったあんこをかけるもののようだ。醤油なんかが入っているようなパックにあんこが入っている。
 書かれた手順の通りに作っていると、長門はふたを開けた状態で止まっていた。
「どうかしたか?」
「クリーム」
 長門が俺に差し出したのは、コーヒーなんかに入れるようなミルクだった。使い切りのポーションタイプのあれだ。
「……」
 なんとなく不満そうなのがわかった。まあ、確かにそれは騙されたような感じがしないでもない。
「半分ずつに食うか?」
「お願い」
 とまあ、そんな風にデザートを食べたのだが、クリーム入りの方もそんなに悪いもんじゃなかった。