今日の長門有希SS

 ここのところ雨が多い。
 一口に雨と言ってもその降り方は様々であり、小雨がずっと降り続けることもあれば、スコールのように短時間に一気に降ってそれで終わることもある。今回の場合は後者の方だ。少し前までは曇っていただけなのだが、なんとなく暗くなったかなと思うや否や降り始めた。通り雨だと思うからすぐ止むだろう。
 バチバチと激しく雨粒が窓を叩き、雨宿りに店内に駆け込んでくる者もいるが、席を確保できたのはその一部。空いてる席がないと悟ったものはまた雨の中を走って去って行くのが見える。
 そんな様子を俺たちはカプチーノなんぞを飲みながら眺めている。
 雨が降り始めたのは、買い物帰りに少し休もうかとセルフ式のカフェに入った後のことだった。不幸中の幸いだ。他の奴が気の毒だとは思うが、どこか別の雨宿りスポットを見つけてくれることを祈ろう。もしくは、早く雨が降ることを。
「大丈夫?」
 ふと、長門がそんなことを言った。はて、何のことだろうか。俺と長門は店の中にいるからいくら外が土砂降りでも問題ないと思うのだが。
「あなたの部屋」
「俺の部屋がどうしたか?」
「窓」
「あ……」
 そうだ、窓を開けっ放しにしていた。出かける前の俺たちは俺の部屋で時間を過ごしていて、暑かったり湿っぽかったりで窓を開けていた。そして、そのまま放置して外出しているわけだ。ここまで雨の勢いが激しいと窓から水が入ってしまう恐れがある。
「ちょっと電話してもいいか?」
「いい」
 わずかにあごを引く。
 長門の許可を得て、俺は携帯を持って立ち上がる。別に長門に聞かせるのは問題ないのだが、客席の真っ只中で会話をするのがためらわれたからだ。
 先ほどまで家には誰もいなかった。誰か帰っていればいいんだが。
 もし誰もいなかったら急いで帰らなければならず、雨が入っていたら後始末も大変だ。本などが濡れてしまうと取り返しのつかないことになる可能性だってある。
 数コールの後、電話が通じた。
「はい、もしもしー」
 聞きなれた妹の声だ。相手が間違い電話なのかわかりやすいように名乗った方がいいと思うのだが、昨今は詐欺などが横行しているので名乗らない方が防犯上は良いのかも知れない。
 それはともかく、妹が帰っていたのは運がよかった。
「俺だ」
「あ、キョンくん? どうしたの?」
「部屋の窓を開けっ放しにしてしまったから、閉めておいてくれないか?」
「うん、いいよ。じゃあねー」
 ぷつんと電話が切れる。用事がまだ終わっていなかったらどうするんだと言いたいが、まあ今回の用件はそれだけだったので問題はない。
 ともかく、これで安心した。降り始めてそれほど経ってないうちに指摘してくれた長門には感謝をしなければならない。
「ありがとよ」
 テーブルに戻って声をかけると、長門は俺の顔をじっと見上げた。
「どうなった?」
「妹がいたから、窓を閉めてくれって頼んでおいた」
「そう」
 頭を下げ、うつむいた姿勢のまま止まる。何かあったのだろうか。
「どうした?」
「大丈夫?」
 先ほどと同じ言葉を繰り返す。今度は何のことだろう。
「あなたの部屋」
「俺の部屋がどうしたか?」
「ベッド」
「あ……」
 実のところ、俺と長門は出かける前に部屋でいちゃいちゃと、健康的な男女としての営みを行っていた。そして、そのための新たなアイテムを買おうと今回買い物に来たのだが、帰ってからそれを試そうかなんて考えていたので、部屋はそのままにしてあったわけであり……
「妹と顔を合わせられないな……」
 別に親に告げ口したりするような妹ではないのだがやはり気まずい。ベッドに気づかずに窓を閉めてくれたことを望むが、それはちょっと都合のよすぎる話だ。
「今日は泊まる?」
「……頼む」


 それから一日は長門の部屋で悶々としながら過ごし、ほとぼりが冷めたかと自分の部屋に戻ったのだが、妹は特に何事もなかったかのように振舞っていた。そして、その話に妹が触れることは全くなかった。
 ただ、自分が部屋に入った瞬間にベッドの惨状を見て頭を抱えたので、気づいた可能性も高いのだが……まあ、この件についてはあまり考えない方がいいのかも知れない。