穴埋め小説「ムービーパラダイス」52

 いきりたった俺の股間を見てさくらが顔を赤らめ、その赤らんだ顔を見た俺は股間をいきりたたせる。一度エネルギーを与えると無限にエネルギーを生み出す永久機関というものがあるが、それはまさにこのような仕組みで実現できるのではあるまいか。
 MK5! MK5! マジで交わる5秒前!
 このままでは飛びかかってしまう事は確実である。急いで物語を完成させなければならない、完成させるならば、襲いかかられる直前の妹。長年相思相愛でありお互いにそれを気付いていたと知っているのだが、罪悪感から一線を越えられず、その背徳感に胸を焦がす己に嫌悪している妹の姿を。
 その目線は股間凝視ではない。しかしながら、その方向性は似て然るべきである。
「顔はそのままで、目線だけずらしてみろ」
「はい……」
 すっ、と目線を右側にそらすさくら。体を右側に偏らせ、右前方の床のあたりに目線を避難させる。
「アリアリアリアリ!」
 素晴らしい。まさしくこれは兄と禁断の果実を食べる直前の妹。顔を赤らめ、視線を右前方床にうつしていながら、ちらちらと俺の股間をうかがう。俺の想定していた以上のシチュエーションを生み出してくれた。こんな素晴らしいシチュエーションに報いなければ嘘である。


 ジジジジジジ……


 何かの音が聞こえる。どこからともなく響く金属音。しかし、それは何の音か?
「っ――」
 息をのむさくら。さくらは小刻みに体を震わせながら、視線がどこかに釘付けになる。果たしてさくらは何を見ている?
 ああ、その謎を解く鍵はさくらの視線が握っていた。さくらの視線の見つめる先、それは俺の股間
「な」
 俺の股間を見よ。ああ、なんということか、俺の無意識に手がジッパーを下ろしているのだった。
「はぁ……」
 顔を上気させ、俺の股間を見つめるさくら。性器そのものではなく、股間付近をぼんやりと。まさしくそれは周辺視システムであった。
「駄目だ!」
 鎖に繋がれた獣のイメージ。今、ここでこれを出してはいけない。今ここで性器をさらけ出すのは下ごしらえ中の料理を食うが如し。


 ジジジジジジ……


 自分自身の欲に逆らい、ジッパーをあげていく俺。ほっとしたようであり、残念なようでもある表情を浮かべるさくら。
 その表情が俺に火をつける。良い、萌える、好き好き大好き!


 ジジジジジジ……


 俺の意に反し、下りていくジッパー。
「くっ……」
 抵抗を開始。止まる腕。集中してやっと手を止める事ができる。気を抜けば下まで直行。
 まだだ、まだ押さえなければならない。こんな中途半端な状態でシてしまうのは、あまりにも勿体ない。
「だ、駄目……」
 右に全身を崩れさせ、両手でどうにか体をささえる。聞こえるか聞こえぬかの声で呟くさくら。しかしながら、下から俺の股間を見上げ続ける。
「見ちゃ……駄目なのに……」
 ちらちらと俺の股間に視線を泳がせる。ああ何ということか、さくらは俺の股間を嫌悪しているのではなく、俺の股間から目をそらせない自分に嫌悪していたというのだ。
 その思想は、まさに禁断の果実に魅了された妹と同じ。そう思うと――
「ひゅう、どすん」
 下まで直行。