穴埋め小説「ムービーパラダイス」49

「まずその座り方が失格だ」
「はあ」
 自分が間違っているという自覚が全くない。萌えを間違えるという事がどれほど恐ろしいことなのかわかっていないのだ。言ってみればシェフの気まぐれサラダを注文して出てきたものがシェフが気まぐれに作ったスープ料理だったくらいに間違っている。すなわち大間違いだ。
 しかし、今はそんな思想の間違いを正す時間はない。と言うかそんな事をするのは時間の無駄だ。表面を変えれば中身も変わる。物事に置いて形から入ることは重要である。
 病は気からと言う言葉もあるくらいだから。
「俺の言う通りにしろ」
「はい」
 良くわかっていないようだが、さくらはまっすぐに俺の目を見る。従順なのは良い事である。
「まず正座をしろ」
「はい」
 左右にだらしなく開いていた足先を整え、両腿の上に手を乗せて座り直す。着物で正座。これも悪くはないのだが、所詮はアマチュアレベルでの話である。不十分。
 本来、乙女座りも良い座り方の一つに数えられるのだが、それを敢えてただすのは前述したように不十分だからである。所詮はアマチュアレベルの萌えでは、アマチュアしか誑かす事は出来ないのだから。
「右手の手のひらを床につけて、右側に重心を移動させろ」
「はあ……」
 右手を床につき、そこで体重を支えるさくら。ずれた尻が床に落ち、なんだか切ないような印象をかもし出す。
 なんとなくゴールが見えてきた。
「顎をあげろ」
「はい」
 く、と顎を持ち上げるさくら。立っている俺を見上げるような感じになる。その表情はぼうっとしているのだが、よくよく観測すると物憂げである。
「良い恰好だな」
「はい……」
 くつくつと喉の奥で嗤う俺に、吐息混じりに答えるさくら。
 こいつ、わかっているじゃないか!