今日の長門有希SS

 3/83/93/103/12の続きです。


 何故、朝比奈さんの恋人役を演じるのが俺ではなく古泉なのか。
 長門ならば当然の選択のように思えたたが、俺達が交際している事は基本的には秘密である。大っぴらにしているのは朝倉と喜緑さんだけであり、俺達から宣言はしていないが言動などから勘付いていると思われるのが妹を初めとする家族だけ。SOS団のメンバーに対しては今のところ秘密である。
 だから、長門が俺ではなく古泉を選ぶのには相応の理由が無ければならない。特に今回の様に迷うことなく選んでしまったのだから尚更だ。
 しかし、朝比奈さんと古泉本人がその不自然に気付かないのならそれに越した事はない。このまま気付かれずにいけば……
「どうして僕なんでしょうか? 長門さん、理由を聞かせて頂いてもよろしいですか?」
 気づきやがった。少々語調の強い古泉の追求に対して長門は――
「容姿が勝っているから」
 と、あっさり返しやがった。
「容姿、ですか……」
 古泉は引きつった顔で固まっている。
「今回の場合、涼宮ハルヒが交際しているという事実を即座に受け入れる事が好ましい。だから、交際している光景が絵になる方が疑問を持たせる可能性が低い」
 そりゃ、俺のツラは古泉には劣るさ。身長だって負けてるしな。朝比奈さんの容姿と釣り合うには古泉くらいのスペックは必要だろうよ。
 そりゃわかるが、恋人である長門にそう宣言されるとそれなりにショックである。何というか、実は某イケメンアイドルが好きでしたと言われた時くらいに。
「だから、わたしはあなた達二人での組み合わせを希望する。より早い事態の解決のために」
 早口でまくし立て「それでいい?」と聞く長門に、古泉も朝比奈さんも反論が出来なかった。


 さて、それから長門の説得により実施される事になった朝比奈さんと古泉の恋人演技大作戦についての相談を終え、最終打ち合わせをしている二人を残して店から出た。会計は古泉持ちなので問題はない。
 作戦立案中も俺はやさぐれていた為、基本的にあまり役に立っていない。そうなった理由は言わずもがな。
 恋人である俺よりも、古泉の方が容姿的に優れていると長門が述べた為だ。自覚はしているし、客観的に見れば大体の人間がそう評価するだろう。そうはわかっているのだが、俺としてはやはりどこかすっきりしないところがある。
「……」
 そんな俺の心情をどう思っているのやら、店を出てからも長門はずっと無言だった。俺達は何も話さず、長門のマンションに向かって歩いている。
「なあ長門
 先に耐えられなくなったのは俺だった。
「なに?」
「平凡な男で悪かったな」
 ついぶっきらぼうに言ってしまう。
「……」
 ぴたり、とその場で立ち止まった。長門はじっと、いつものように無表情に俺の顔を見つめている。
 その顔から感情を読み取る事は難しい。
「かまわない」
 それは、妥協って事か?
「他人の容姿は関係ない。でも――」
 長門は少しだけ拗ねたような声で、
「先に朝比奈みくるの容姿を天使と形容したのはあなた」
 と言う。
 えーと、それはつまり……お前もさっきまでの俺と同じような心境だったと言う事で……
「あれは一般論を述べただけ。わたしの好みは一般の人間と少々ズレがある」
 と言うと、スタスタと歩き出してしまった。
「あ、待て」
 追いかける俺よりも少しだけ速い。追い付こうと速度を上げると長門もそれより少しだけ速くなり、やがて俺達は追いかけっこのように走り出す。
 結局、最後まで長門は追い付かせてくれなかった。俺に顔を見られないためだろうか。