穴埋め小説「ムービーパラダイス」28

「仕方ない」
 俺は弾倉を外し、スタン弾から別の弾に切り替える。今度は砂鉄を圧縮し固めた弾で、これは目標にぶつかる事で砕け散る為、怪我などをさせることはあまりない。ただ、砕ける前の状態は普通の銃弾と大差ないわけで、スタン弾以上の威力がある。
 確か、この銃弾は狙撃で銃だけをはじき飛ばす時などに使用されているらしい。
 ちなみにこの銃は不法所持ではなく、特別な許可を得て通常の銃弾を撃てない状態のものを支給されたので持っているわけだ。まあ、殺傷能力は無いが通常の銃以上に使い勝手が良いので、俺はこの銃を愛用している。
 他に不法所持の銃があるのは内緒だが。
 俺は車のかげから体を出すと、イーストウッドの額めがけて引き金を引く。
「ぎぁっ!」
 額で弾丸が炸裂した刹那、声というより音を発してイーストウッドはその場に崩れ落ちた。西部劇を演出する余裕すら無いようだ。
「クリントー!」
 仲間達が一斉にイーストウッドを取り囲んでその体を揺さぶる。が、イーストウッドは昏倒し目を覚ます気配は無い。
「この卑怯者共めっ!」
 逆上し何故か複数形で罵倒しつつ再び俺に銃弾を撃ち込み始める部下達。間断無く降り注ぐ銃弾に俺は攻撃のタイミングをつかめない。
 しかしまあ、飢巣譚達が障害物を避けて攻撃するほど頭が良くないのは助かる。そうでなければこちらも負傷しているだろう。


 パラララララララララララー!


 唐突に愛のテーマが響きわたる。
「おい、時間だ!」
「なに!?」
 飢巣譚達は攻撃の手を休めると、それぞれ胸元から懐中時計と取り出して時間を確認する。
「くそ、もうこんな時間か!」
「早く戻らないとやばいぜ!」
 等と口々に言い合うと、飢巣譚達はイーストウッドを馬に乗せると、俺の存在をすっかり忘れたようにどこかへ走り去ってしまった。
「何の時間なんだ、一体?」
 時計を見てみると、そろそろ一時にさしかかろうという時間だった。


 後にわかった事だが、この日は午後一時からテレビ東京系列で西部劇の映画が放送されていたのであった。