今日の長門有希SS

 いつものように文芸部の部室でダラダラと過ごしていた時、唐突に雪合戦をしたいとハルヒが言いだした。
 もちろん雪など積もっているはずがない。降ったところで積もる前に消えてしまうわけで、雪合戦などそう簡単に出来るはずがない。
 人工降雪機をどっかから入手するとか、人工雪のスキー場に行くとか、はたまた雪のある地方に遠征とか滅茶苦茶な事を言いだしたハルヒだが、最後には諦めたように「もういいわよ!」とか言った。
 しかしながら、それで簡単に諦めないのが涼宮ハルヒである。口をとがらせてぷんすかと湯気を頭から立ち上らせていた事からも明らかである。
 ともかく、ハルヒは諦めちゃいなかった。それを実感するのは、朝っぱらから古泉の電話で叩き起こされ「窓の外を見てください」などと言われるままにカーテンを開けた直後である。
「これは一体、どういう事でしょうね」
 どうもこうもない。天気予報じゃ昨日から今日はどうなってたんだ。
「晴れ時々曇りと言ったところでしょうか」
 と言うことは、やはりこれは異常気象ってやつなのだろう。
 窓の外、一面と真っ白になっている雪景色を見て、俺はやれやれとため息をついた。


キョン! 今日はいい天気ね!」
 窓の外はしんしんと雪が降っている。普通の奴からこのような言葉が発せられると頭を疑いたくなるところだが、ハルヒからなら耐性が出来ているし、昨日の一件があったからそれほど驚くような事でもない。
「今日の放課後は雪合戦よ!」
 ハルヒはニコニコと上機嫌だ。ついでに「それまでもうちょっと積もって欲しいわね」なんて言ったりもしている。
 俺に話す事に飽きたのか、ハルヒはフラフラと歩いていって朝倉なんかに何やら話しかけていたが、俺はぼんやりと窓の外を見ていた。
 雪が積もって良いことなんて無い。自転車にも乗れないしな。
 まあ、雪合戦をやって満足してくれれば解決するんだろう。ついでに雪が積もると不便だとハルヒが思ってくれればいいんだが。


「雪か」
 昼休みになってもまだ降り止まぬ外を見ながら俺は本日何度目になるのかもうカウントしたくもないため息をついた。
「……」
 向かいに座る長門は俺の顔をじっと見て、
「わたし?」
 いや、お前の事じゃないぞ。
「そう」
 止まっていた手が再び動き、もぐもぐとおかずを口に運ぶ。
 長門にとっては今日の天気はどうなんだろうな。明らかにハルヒが原因ってのはわかっているんだろうが。
「いつまで降るんだろうな?」
「雪は嫌い?」
 無表情ではあるのだが、なんとなく困ったような顔でこちらを見ている。
「嫌いってわけじゃないさ」
 ただちょっと不便なだけだ。寒いし自転車に乗って移動も出来ないし。
「そう」
 長門はしばらく手を止めてから、
「わたしの部屋との往復が大変」
 と言う。
 確かにそれはあるな。雪が降ったら、長門の部屋から自分の家まで帰るのがめんどくさくなってしまうかも知れない。
「そう」


 それから教室に戻る最中の廊下で、窓の外を見るとなんとなく雪の振り方が激しくなっていたのは、俺の気のせいだよな?